第34話⭐⭐

『風呂って、なんだ?』

 ディラが興味深そうに首を傾げた。無いの?この世界って……。

 ディラの生きてた時代にも、おババが知っている街の生活でも……ないの?

「うん、体温より少し暖かいたっぷりのお湯に、全身浸かるの。水浴びのお湯版?」

『お湯なら、水の魔石と火の魔石があればいいんだよね。全身浸かるお湯を入れるには、穴でも掘る?それとも酒樽にもでも入る?』

 ディラが収納鞄の中身を思い出しながらなのか、風呂が用意できないかと考えてくれた。

 えええ?魔石か。魔石があれば、ここでもお風呂は入れるんだ。

 魔法にも魔石にも頼るようなことはするもんかって思ったけど。

 いや、でも、風呂……。風呂入りたい。

 それに……。薄汚れた子供たちを見る。綺麗にしてあげたい。

 うー。激しく葛藤する。

 私の中の天使が「ダメダメ。魔法や魔石なんてなくたって幸せに生きられるってところを見せてあげないと」とささやき、悪魔が「へへへ、魔法や魔石、それに収納鞄の中身に依存する生活はダメだが、それは生きるために必要な部分だけじゃないのか?風呂ならあってもなくても生死にかかわらないんだから、魔石使っちまいなよ」と誘惑してくる。

 うーぐ。うーぐ。

「火の魔石と水の魔石と酒樽」

 誘惑に負けました。ぐず。

 収納鞄から出てきた酒樽は、ドラム缶のような大きさで、確かに人が入ることができそうなサイズだ。

「うわー、何、これ?なんだ?」

 ドンタ君がすぐに酒樽に近づいていく。

 モモちゃんは初めて見る巨大な樽にちょっと腰が引けたのか、ミーニャちゃんの後ろに隠れて樽を見た。

「ま、魔法?いったいこれはどこから……?」

 ミーニャちゃんが目をまん丸にした。

 どこからって、ハイポーションを出したときはそこまでは驚いてなかったような?あれは服の中からも出せるような大きさだったからかな?

「ま、まさかそれは……古代遺物……アーティファクトでは……」

 おばばさんが、今酒樽を出したポシェット型の収納鞄を指さし、小刻みに震えている。

「古代遺物?」

 確かに、古代というほど古いかは分からないけれど、300年前の、遺品ではあるよね?

 ちらりとディラを見る。

『アーティファクト?そう呼ばれるのって、レアアイテム中のレアアイテムだよな?確かに、その収納鞄は他のものよりも優秀だけれど、そこまでレアってものでもないし、そのレベルのものをアーティファクトなんて呼ばないけどなぁ……?』

「子供のころ本で読んだんじゃ。……魔王が現れる前には、魔法の力が及ばない不思議な品を作れる者たちがおったと……。たくさんの品が入り、入れたものは腐ることも劣化することもないという不思議な鞄や、治癒魔法では直せない体の欠損までも直すことができる薬まであると……」

『へ?誰も作れないんじゃないかな?ダンジョンからのドロップ品だし。収納鞄は性能がどんなに小さなものでもドロップ品しかなかった。それに、欠損が直せるってのはエリクサーのことだろ?エリクサーはドラゴンレベルのモンスターを倒さないとドロップしない超レアアイテムだぞ?人が作れるわけがない』

 ディラが首をかしげる。

『まさか、魔王が亡ぶとともに、モンスターも姿を消した?……それで、ドロップ品が手に入らなくなった?ドロップ品に関する常識的な知識もなくなってしまった……のか?』


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⭐印は私的メモ。

この先改稿しながらの更新ですので、不定期となります。



……すいません、別の作品に最新話更新してしまってました。焦った……。

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