第33話
「こ、これは……話に聞いたことがあるポーションというものなのじゃないのかの?」
「あーっと、ローポーションです」
おババが、小刻みに震える手で、空になった瓶に視線を落とす。
「なんと、なんと、そのような貴重な物を……ローポーションといえども……殿上民様しか手に取ることしかできないような品」
へ?
下級民というからには、上級民やら中級民やら呼ばれる人がいるのは想像できるけれど、殿上民?
言葉的には王族系?陛下と呼ばれる人間がいたよね……。私を召喚した挙句、捨ててこいと命じた男だ。
『全然貴重じゃないよ。5歳の子供でも倒せるスライムから手に入るから。大人なら、歩き回ってる間に知らずにスライム踏んで倒せちゃうレベル』
へ?
おババから視線を外してディラを見る。
うーん、どちらも嘘をついているようには見えない。
……300年前と状況が違うって言うことだろうか?
遠くに街を包むベールが見える。
「あ!そういえば、街から外に出ると中には戻れないって言ってた。ディラ、そのスライムってどこにいるの?街の中で出たりする?荒野、通ってきた場所ではいなかったよね?」
街の外ではありふれていて、何でもない物でも、街の中では貴重品だという話かもしれない。
「ディラ?」
ネウス君が首を傾げた。
しまった!幽霊と会話するの聞かれちゃった。今までずーっと、ディラに話しかけられても無視してたのに!
「あーの、その、精霊の名前……」
さっきうっすら皆に姿を見せたので、大丈夫かな?
「ユキは会話もできるのか!すげぇ!あ、だったら、精霊様にありがとうって伝えてくれるか!」
「あたちも、せーれーたん、ありがと」
子供たちがみんな口々に精霊様……じゃないディラにお礼を言い始めた。
うおう、ディラがまた泣いてる。
よく泣くイケメン幽霊だな。感激しすぎて……あれ?
満たされた気持ちになれば成仏しちゃうのに……ディラ、この程度じゃ成仏できないくらい剣に思い入れ、この世に未練があるの?そういえば、前に舞い上がったけど剣とはつながったままだったし。
『幸せ過ぎて死にそう、ユキ~』
ほら。すごく満たされてる。っていうか、死んでるから。
「あのね、精霊は姿も見えないけど声も聞こえないけど、こちらのことは見えてるし、みんなの声を聞こえてるから、この剣のところにいるから、話しかけてあげてね」
「分かった!」
「オイラも、いっぱい話する!」
子供たちが剣の周りに集まって、思い思いに話を始めた。
ディラも子供達も幸せそうな顔だ。
笑顔がある。ただ、それだけで、こんな境遇でも幸せなのだと満ち足りた気持ちになった。
うーん、でも、足りない。そう、極上の幸せにはあれが……。
「あー、風呂に入りたいなぁ……」
召喚されてから2日間たくさん歩いてくたくた。温かいお湯に心ゆくまで浸かりたいと思って思わず声が出てしまった。ここで風呂なんて入れるわけないのに。飲み水さえ手に入らず、美味しくない木の汁を飲まないといけない生活なのに。
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