第32話

「そう、これは、えーっと、すごい剣で、剣の精霊みたいなのに、えーっと毎日お供えしなくちゃいけないの」

 収納鞄からローポーションを取り出し、ミーニャちゃんを手招きする。

「ほら、これを持って。お供えいたします。お召し上がりくださいって剣の前に置いてね」

 ミーニャちゃんの手にローポーションを手渡し、それからそっと両肩に手を置く。

 少しだけ、霊力をミーニャちゃんに流し込む。

 日本にいるときも、こうすると他の人にも見えるようになったんだよね。幽霊が。

「うわっ、せ、せ、精霊様?」

 よしよし。ディラの姿が見えたようだ。

 ふむふむ。無駄にイケメンなんて思ってごめんね。イケメンが役に立ったよね。

 なんとなく、幽霊っていうよりはイケメンだけに精霊っぽいと思えなくはない?

 ディラが嬉しそうにだらしない顔をしそうになったから、慌ててミーニャちゃんから手を放す。

「あ、あの、精霊さま、えっと、お供えします、あの、お召し上がりください」

 ミーニャちゃんが恭しい手つきで剣の前にローポーションの瓶を置いた。

 これを、全員分繰り返す。

「さ、じゃぁ、今度はお下がりをいただきますって言ってから、瓶を一つずつ取って、残さずに飲んでね」

 精霊様の姿が見えたと信じている皆は緊張気味に瓶を取って飲み干した。

 ディラの剣がある時だけの特別な行動。いつでもローポーションが飲めるわけじゃない……そういうことにしておけば、きっと頼り切りな生活になることはないだろう。

 それにしても、精霊って適当に口にしたけれど、この世界に通じる言葉でよかった。

 さて、精霊のふりをした幽霊君はどうなっているかと言うと……。

『ユキ、もう、飲めない……げぷぅ』

 律儀にお供えされた6本のローポーションを順番に飲んでいる。

 1本が小さな缶ジュースくらいの大きさ。全部で1リットル近くはありそうだ。頑張れ、ディラ。

『お腹が破裂して死にそう……』

 いや、死んでるから、心配ないよ。

「お下がりをいただきます」

 と、私もローポーションを手に取って飲む。

 ん?この味は……。

 まずぅーい、もういっぱぁい、っていう……まずさだ。そういえば液体の色は緑の濃い色。あおじr……。

 大人でも厳しい味だ。子供たちは……頑張って飲んでいた。2歳のモモちゃんですら……。

「苦い……精霊様はいつもこんなに苦いものを飲んでるの?」

「え?」

 飲み終わったミーニャちゃんが悲しそうな顔をする。

「オイラ、お肉お供えしてあげればよかった。きっと、精霊様も美味しいもの好きだよな?」

 にぱっと笑うドンタくん。

 あ、ディラが泣いてる。嬉しいんだね。子供たちの優しさが嬉しいんだね。

『ううう、頑張って飲むよぉ』

 感動と、もう今更残せない状態とで、泣きながらディラがローポーションを飲んでいる。

 あ、心なしか、子供たちの顔色が少しよくなったような気が……。

 ローポーションも栄養ドリンクなんかよりずっと効き目がありそうだ。

 ゆっくりとローポーションを飲み干したおババが目をカッと見開いた。

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