第31話

「ごちそうさま」

 おいしかったという言葉は飲み込んだ。いくら子供とはいえ、心にもないことを言っているのはすぐにばれるだろう。だって、私はこれからこの子たちにもっとおいしいものを食べさせたいと思っているんだもの。

 どうしたらいいのか考えないと。

『あのさ、ユキ……収納鞄の中に、たぶん数えきれないくらいのローポーションが入ってると思うんだ』

 ローポーション?ハイポーションって前に言ってたから、効果の弱いポーションっていうことかな?

『モンスターを倒すとドロップするんだけど、収納鞄に【自動回収】の魔法を付けてもらってあるから、知らない間に倒したモンスターのドロップ品も入ってると思う。数は本当にどれくらいか分からないんだけれど、数万本はあると思う』

 す、数万っ!

『だから、子供たちにあげてくれないかな』

 ……ローポーションはきっと体力だか何かを回復する薬なのだろう。

 収納鞄の中の”食事”とは違う。”薬”であれば、今、このやせ細ったこの子たちに必要な物じゃないだろうか。毎日毎日使うものではない。今だけ使うと考えれば渡してもいいなか。数万本もあるならこの子たちの体がしっかりするくらいまでは足りるだろうし。

 いや、本数の問題ではなく、私も何かあげたい。

 ディラだってきっとそうなんだろう。だからこそ、ローポーションの話を私にしたんだと思う。

 薬だったらオッケーとか……健康のためなんてごちゃごちゃ考えてるけど、結局は自分のエゴなのかも。彼らのプライドを傷つけたりしないだろうか。彼らの今までの生活を脅かすようなことになりはしないだろうか。私はいつまでもここにいるつもりもない。日本へ帰る方法を探したいし、帰れるならすぐに帰るつもりで……。

 ……そうだ。この子たちなら、今だけの特別で、今後頼るようなことはないと分かっていれば渡しても大丈夫だよね……。

「よし。ディラ、ちょっと何もしゃべらないで、ただ優しそうな表情で微笑んでてくれない?」

 剣を持ち上げて小さな声で囁く。

『分かった』

「皆、ご飯の後は、これ。えーっと、すごく大事な剣なの」

『大事、ユキが僕のこと大事って言ってくれた!』

 黙っとれ!

 ずんっと地面に剣を突き立てる。

 お、立った立った。

「わー、勇者の剣みたいだ。おババの話してくれた勇者の剣ってこうして地面に立ってたんだよな?」

 ドンタ君が目を輝かせた。

「そうじゃな。1000年前の勇者様の伝説ではそう伝わっておる」

 1000年前!勇者の伝説!どこの世界にもそういう創作物ってあるんだ。勇者しか抜けないエクスカリバーみたいなやつだよね?違うかな?

『へ?1000年?』

 ディラ、黙ってなさいって言ってるのにっ!

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