第30話
それから、木の葉っぱと根っこの芯のスープを食べる。
『う、うん、なかなか個性的な味だ……砂ネズミは干し肉よりうまいな』
ディラが食べたのを確認してから、お下がりをいただきます。
ディラにとっては300年ぶりの食事。
収納鞄には美味しいものたくさん入ってるはずで……。こんなまずい物よりもっとおいしいものを出せなんて言わなくて……、作ってくれた人に感謝して残さずに食べるの……。
「ディラは、いい幽霊ね。好きだわ……」
悪霊にならないでいてね。
『え?好き?僕もユキのこと好きだよ!大好きっ!』
にぱっと嬉しそうに笑うディラ。
そうだよね。幽霊って嫌われがちだもん。好きなんて言われたら嬉しいよね。
それにしても、どこをどうあれするとそうなるのか分からないけれど、舞い上がっている。
なんか、地面に置いた剣とつながってはいるんだけど、足の先が細くなってゴムみたいに伸びて上空2mくらい舞い上がっている。
『ああ、幸せ』
器用だな。
……幸せなのなら、成仏して昇天してきそうなもんだけど、伸びてるだけって……。
「う」
ディラの言う通り、木の汁はまずい。ひどい青臭さと、変な苦みと……。
……サボテンは美味しいというネウスくんの言葉が脳裏に浮かぶ。そうだね。普段飲んでいるものがこの味ばかりなら、サボテンの汁はご馳走だ。
葉っぱはヨモギだと思えば苦くても食べられる。皮をむいた木の根っこも、ゴボウのようなものだと思えば食べられる。
ただ、ヨモギもゴボウも毎日だと辛いだろうな。調味料もないから、辛いだろうな。かすかに泥くさい味の木の根。
それから砂ネズミは、生臭さはあるものの鶏もも肉のような歯ごたえで食べやすい。
「おいしいね、ネウス兄ちゃん、オイラも砂ネズミ頑張って捕まえるよ」
「おいちー、すきー」
子供たちはなかなかお肉を飲み込まなかった。
口の中で何度も何度も噛んでいる。それほど、この肉はめったに食べられない飛び切りのごちそうなんだ。
……。
収納鞄から食べ物を出すのは簡単だ。
おババが食べさせたいと言っていたパンも入っている。シチューも食べさせてあげたいと思っていた。
だけれど……結局収納鞄から取り出すのは魔法を使っているようなものだ。
それに収納鞄の中身が空になったら終わってしまうものに頼りきりになるのは危険だ。
森は危険だと。ネウス君は危険な生き物がいると言っていた。おババは魔力のたまり場だから危険だと。本当に危険なのかな?
もちろん、自然はなめてはいけない。だけれど、もう少し食料を取るために森の中に入ることはできないのだろうか。
畑を作るにしても、……森の中を少し探せば、ちょっとした開けた場所もあるかもしれない。荒野に近い土地より栄養分もありそうだし。
……そもそも、樹液を飲まないといけないってことは水がないってことだ。
作物を育てるには水のことも考えないと。森の木々は青々と茂っている。水源となる何かがきっとあるはずだ。
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