第27話

「たくさんの荷物を運んだりもできる……それから」

 貨物列車か貨物トラックか。それとも、もっと大きなもの?おババさんが魔法が使えたらできただろうことを口にしていく。

「こっから街まで1日で行くこともできる……」

 ん?歩いて2日だった。

 自転車なら1日、自動車なら数時間もあれば到着しちゃわないかな?魔法を使っても1日かかるの?車のが優秀じゃないか。

 魔法っていうと、一瞬で移動できるイメージがあるんだけれど。転移魔法っていうんだっけ?そういうのじゃないんだ。

 車どころか馬でも勝てそうだよね。

 車は作れないけど、馬車程度なら……魔法が使えなくたって十分だよね?荷馬車を作れば荷物だってたくさん運べる。馬みたいな動物がいないのかな?

 魔法って意外とすごくない?

『まぁそうだなぁ、賢者レベルにならないと転移魔法使えないからそんなもんか』

 転移魔法?!やっぱりあるのか!そりゃ、転移魔法なら魔法の圧勝だよ!すごい!

 思わず勢いよく首を回してディラを見る。転移魔法……もしかしてそれを使えば日本に帰ることも?

「じゃが、わしに魔法が使えれば叶えたいと、何度も思ったことは一つだけしかない……」

 1つだけ?そりゃ、空を飛んだり夜が明るくなったりとかどうでもいいのかもしれないけれど……。何度も思うというのは、よほどのことだ。

 火がなくて困る以上のことなの?

「パンが、食べたい」

 は?パン?

 パンを買うお金があればいいってこと?それとも街の中に入りたいっていうこと?

 魔力があれば街から追い出されることもなく、働いてパンを買って食べることができたのだろう。

 街に住むためには、確かに……魔力がいる……それは、魔法が使えない世界での知識を使ってもどうにもできない……。

「生まれてすぐに捨てられたこの子たちに……パンを一度でいいから食べさせてやりたい……いいや、一度じゃない、毎日腹いっぱい食わせてやりたいと何度思ったことか……」

 おババの目尻に光るものが見える。

 おババが繰り返し思ったその心を思うと、胸がぎゅっと締め付けられる。

『収納鞄の中に、いっぱいご飯入ってるよ、ユキ、出してあげて!』

 ディラも同じように感じたみたいだ。泣きそうな顔で私を見る。

 うん。そうだね。そうしてあげたい。

 でも、そうじゃないよ、ディラ。

 今あるものはいつかなくなる……。だから、継続的に手に入れるためには……。

「小麦を育てて、粉にして酵母を作ってパンを焼く……」

 知識がなければ難しいことなのか。確かに、酵母と言われても困る。出来上がったパンを見て、小麦を使っているということも想像できない可能性だってある。

 でも、きっとそういうことじゃない。

 追い出された街で見た光景を思い出す。

 広い畑で、ニンジンのようなものを魔法で収穫していた。魔法で野菜を育てて収穫してるってことだろう。

 魔法がなければ火がつけられないのと同じで、魔法がなければ小麦を育てられないと思っているんじゃないだろうか。

「畑を作りましょう!」

 おババが驚いて糸のような目を開いた。

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