第26話

「そんなのあいつらが勝手に言ってるだけ。ここに、お前は低級民で私は上級民だなんていう人いる?」

 ドンタ君が私の顔を。それからおばば、そして調理場にいるミーニャちゃんとネウス君を見た。

「いない……」

『僕も、僕も言わないよ!っていうか、低級民なんて言う人間なんて僕の周りにだって誰もいないよ!魔力があったってなくたってみんな一緒に暮らしてたんだからっ!』

 ディラが大きな声を出している。まぁ、ドンタ君には聞こえないけどね。

 でも、そうか。300年前には魔力のあるなしは関係なかったんだね。いったいいつから差別が始まったんだろう。いや、もしかすると国ごとに違うのかな?運悪く、私を召喚したあの街……国?が差別するところだっただけ?それとも、300年の間に何か起きたの?

 ドンタ君が顔を上げて私の顔を見た。

 瞳からは絶望の色が消えている。

「そう、だから、ドンタ君は低級民じゃなくて、いい子!本当にいい子だから!」

 ドンタ君の背中に手をまわして抱きしめる。細くて細くてあんまり力を入れると折れちゃいそうだからそっとふんわりと抱きしめる。

「俺が……いい子?」

「そう、いい子だよ!」

 ディラがドンタ君の頭をなでなでしているのが見えた。

 どこにそんな力があるのかってくらい強い力でドンタ君が私にしがみついてきた。

「俺……」

 Tシャツがぬれていくのが分かる。ああ、ドンタ君がまた泣いてる。

「……何にもできないなんて、もう思わない……魔法がなくたって火がつけられたんだ……俺、もっと、もっと……生きたい……」

 うぐっ。

 心臓に突き刺さる言葉だ。

「もちろん、生きよう!そのために……いろいろできること増やしていこう!魔力が無いからできないと思ってることは何?」

 魔法が無くても大丈夫だと一つずつ自信をつけさせてあげたい。

「魔法が使えないからと、諦めていることは何ですか?」

 ドンタ君だけでなく、おババの顔を見て尋ねた。

 私の質問におババが糸のような目を見開く。

「そうじゃな……」

 おババが考え込んでしまった。

「魔法が使えたら、色々なことができることは確かじゃ……夜でも昼間みたいに明るくできる」

 電気があれば、魔法なんてなくたって明るくなる。けれど、今の私はエジソンじゃないから電球は作れないんだ。ごめん。

 でもね、魔法が使えなくたって、叶うことなんだよ?

『光の魔石を使えばいいんだよ』

 ディラがドンタ君の頭を撫でながら答える。

「空を飛ぶこともできるし……」

 ……ごめん。それも無理かな。ライト兄弟じゃないから飛行機も作れないや。だけどね、魔法使えなくたって空は飛べる。今なら有人ドローンなんてのも開発されつつあって、飛行機よりももっと人は空を自由に飛び回れる日も近いんだよ。

『風の魔石で飛べるよ!』

 ディラがニコニコしてこたえている。

 300年間一人で寂しかったから、人がたくさんいることた嬉しいのか、誰にも声が届かないというのに、あ、私に言ってる?

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