第19話

 せめて、料理したらあの姿がなくなりますように。丸焼きは勘弁してください……。そう、回避するのことはもう一つあった。

「あと、血は栄養が足りない人にあげて。私は街を追い出されたばかりでまだ元気だからね?」

 血が飲みたくないというのもあるけれど、実際私よりも目の前のネウス君、それから村の人たちの方が必要だろう。ネウス君は優しい。村の人たちに虐待されてこんなにやせ細っているわけじゃないと思う。とすれば、村人全体が食べる物が少なくて大変な生活をしているということだ。

「あ、ありがとう……あの」

 まだ、ネウス君が申し訳なさそうな顔をしている。

「ねぇ、村にはどれくらいの人がいるの?」

「あ、うん、えーっとコレだけ」

 ネウス君が手を開いて見せた。パーの形だ。

 5人?……5という数字は分からないのかな?さっき3か月と言っていたから、分かるよね?いや、3より大きくなると分からない?

 もしそうでも、仕方がない。食べるものに事欠く生活してるのに、教育だけ行き届いているはずがない。

 しかし、たった5人の村?

「どういう人がいるのかな?」

「おババと、それから妹と弟たち」

 うん。あとは?と聞こうとしてお母さんやお父さんがいないという可能性を考えて聞くのをやめた。

 魔力0……は捨てられる。

 親が捨てない可能性はない。捨てられた子供と、おババという人だけの集まりかもしれない。5人か……。

 村というより、それ、家族……。だけれど、他に誰もいないならそれで村ってこと?日本でも過疎化したりダムに沈む予定で皆引っ越して残り1人や2人でもなんとか村って呼ぶもんね。って、それとは違うか。

「私、村に行っても大丈夫かな?よそ者は入れないとかそういうのない?」

「大丈夫だよ。俺たちみんな低級民だし……ユキが嫌じゃなきゃ、村に来くれよ」

 低級民って魔力0の人間のことでしょ。

「私も低級民だよ……って言いたいけれど」

 駄目だ。やっぱり。言いたくなんかない。

 今更ながら頭にくる。

「自分たちのこと、自分で”低級民”なんて言わないでいいんだよ!人はみな平等なんだから。なんで、魔力があるなしで低級だとか言うんだろう!人を物のように投げ捨てたりするあいつらの方がよほど低級低俗最低だよっ!」

 思わず叫べば、ネウス君がびっくりして目を丸くしてる。

「で、でも、俺たち、魔力がねぇから、何も出来ない……」

「何もできない?」

 何それ。

「ネウス君は、サボテンも見つけられるし砂ネズミも取れる、それに妹のために薬を探しに行けるし、私の道案内もできる、できることだらけじゃない!」

 怒りのテンションそのままで、ネウス君の両肩をつかんで揺さぶる。

「だけど……」

 だけど何?

 なんで、魔力のあるなしでここまで卑下するようになっちゃうの?

「魔法が使えねぇと……火も出せねぇし、麦も育てられない」

 は?どういうこと?

 ディラの顔を見る。

『そんなことはないぞ。魔法が使えなくても火の魔石があれば火は出せるし、土の魔石があれば麦も育つ』

 は?

 火をつけるのに、魔法に魔石?

 麦を育てるのにも、魔法や魔石?

 この世界の常識が分からない。

 もしかして地球とは根本的にいろいろなことが違うっていうの?

 物理法則だとか科学や化学的なことも違う?

 なんだかもやもやした気持ちを抱えながら休憩を終えた。

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