第20話
歩いて、歩いて、久しぶりに緑が目に飛び込んできた。
オアシスみたいな場所ではない。荒野を超えると、森が広がっているようだ。
その、森のほんの入り口に、村はあった。
いいや、村なんて物じゃない。テントよりは少しだけ建物らしいものが、いくつかあるだけだ。
日よけができる屋根がかろうじてある。そんなものだ。
「あ、ネウス兄ちゃんお帰り」
壁もない。その屋根の下から8歳くらいの男の子が飛び出してきた。
この子もまた、骨と皮だけのやせ細った姿。
ボロ布を身にまとい、顔も手足もあかで薄汚れ、髪の毛はもさもさ。
髪の色や肌の色はネウス君とは違う。妹や弟たちと言っていたが、魔力0で捨てられた子供たちで血のつながりはないのかもしれない。
家族じゃない者が身を寄せ合って生活しているから村?
「ドンタ、ミーニャは?」
ネウス君の質問に、ドンタと呼ばれた男の子が小さく首を横に振った。
「昨日から、目も覚まさない」
その言葉に、ネウス君が青ざめて駆けだす。律儀に、ディラを抱えたままだ。
慌ててその後を追う。
「ミーニャ!」
4つほど建てられた粗末な家とも呼べない家の一番手前の屋根の下に、12歳前後の少女が寝かされていた。
生きているのか死んでいるのかもわからないほど静かに、枯葉が敷きつめられた上に、そっと横たわっている。
ネウス君が剣を地面に置いて、ミーニャちゃんの枕元に膝まづく。
『生きてるよ。大丈夫。今助けるよ』
と、聞こえもしないのにディラがネウス君の背中を撫でた。
『ユキ、エリクサー……でなくて、病気ならハイポーションで充分だね。収納鞄からハイポーション取り出して、スプーン1杯くらいあげて』
ハイポーション?
また新しい単語が出てきたけれど、言われるままに収納鞄からハイポーションとスプーンを取り出す。
「ネウス君、ミーニャちゃんの上半身を起こして支えてあげて、薬を飲ませたいから」
「あ、うん」
ハイポーションは、エリクサーの瓶よりも一回り大きな瓶に入っていた。液体の色は薄桃色でおいしそう。エリクサーは墨汁色だとすると、ハイポーションはイチゴミルクのような色だ。蓋を取ると、ふわりとイチゴミルクの匂いがした。
え、味もイチゴミルク?気になるけれど、味見なんてする余裕はない。
スプーンに垂らして、ミーニャちゃんの口に運ぶ。
意識がないし、飲み込める状態じゃないけれど、スプーンの液体を口に入れると、土気色していた顔色が次第に良くなっていく。
30秒ほどすると、こくりとミーニャちゃんの喉が鳴った。ああ、飲み込めたんだ。
それからゆっくりと両目が開く。
「ああ、お兄ちゃんお帰り」
「ミーニャよかった!」
ネウス君がミーニャちゃんをぎゅっと抱きしめた。
「ありがとうユキ。ユキのおかげだ」
笑顔がある。ガリガリに痩せて決して裕福ではないというのに、笑顔がある。
「ありがとう、ユキお姉さん?……私……助かったんですね。なんだか、すっかり体が軽い……」
ミーニャちゃんも笑っている。……って、体が軽い?
生死の境を何日もさまよっていたのに?
ハイポーションってすごいなぁ。病気を治した上に、元気にもなるの?
「なんだ、助かったのか……。死ねばよかったのに……」
え?
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