第14話
男の子が差し出した両手、手のひらは強く握っている。そして、小刻みに震えている。
骨が浮き出て折れそうな腕。
「切り落とすなら腕にしてくれ。足は、妹のところに戻れなくなると困るから……」
は?
切り落とす?腕を?何を言っているの?
思考が停止する。そんな残忍なことを私がするように見える?
というか、低級民……魔力がないと、そこまでひどい扱いをされるのが普通なの?
男の子がやせ細って倒れそうなのも、妹が死にそうになっているのも、全部、低級民……魔力がないから?
孤児だとか貧しい村だとか別の理由があるわけでなく、ただ、魔力がないという、それだけが理由なの?
街の様子を思い出す。皆豊かなように見えた。孤児を養う余裕がないようには見えなかった……。
思わずぐっと手に力が入る。
「あ!」
そこで、はたと気が付いた。
「ごめん、怖がらせちゃった、違う、あのね、これ、そうじゃないのっ!」
男の子を安心させようと、手に持っていた剣をぽんっと、投げ捨てる。
そうか、私が剣を持って現れたから、切られると思ってびっくりしちゃったんだ。
男の子が差し出している手に、そっと触れると、びくりと少年?青年?の肩が動いた。
「安心して。私も魔力0。今さっきその街を追い出されたとこ。で、行くところがなくてどうしようかなぁと思っていたところなの。君が良ければ、君の住んでいるところ……妹さんのいるところに案内してもらえないかな?お礼はするから。あ、さっきの食事もお礼の前払いだと思ってもらえればいいよ?」
男の子顔をあげた。
「魔力が……?あんたも……?」
「あんたじゃなくて、ユキよ。そう。魔力0」
なるべく怖がらせないようにと、飛び切りの笑顔を作る。
「俺は、ネウス……。俺たちのところに案内はする。でも、その前に……」
ネウス君が街に視線を向ける。
そういえば、妹さんに薬が必要って言ってた。……けれど、街の中には入れないんじゃなかった?
それにお金も魔力もないのにどうするつもりだったんだろう?
「薬なら私が持ってるから。さぁ、案内お願い」
と声をかけると、ネウス君がぐっと口を引き締め、それから深々と頭を下げた。
「薬の代金に差し出せるものは”俺”しかない……。あんた……ユキの好きなように……」
また、腕を突き出すネウス君。重い……。
「街の外のこと私何も知らないから、教えてもらえればそれでいいからね?」
ネウス君がフルフルと首を横に振る。
知識や情報だって、お金になるって知らないのかなって、違う、そんなことを話してる場合じゃない。
「妹さん、急がないと駄目なんじゃない?どっち?あっち?」
というと、ネウス君がハッとして差し出した腕を下ろした。
「俺はあんたのものになる……何でもする、だから、妹を助けてくれ」
だから、もういいって。と、ふと足元に投げ捨てた剣が目に入る。
「あ、じゃぁ、それ運んでもらってもいい?ちょっと重たいんだけれど……」
「分かった!」
ネウス君が嬉しそうに満面の笑みを浮かべると剣を拾い上げて立ち上がる。
ガリガリで棒のような体だけれど、4キロほどと思われる剣を持ち上げる力はあるようだ。
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