第13話

「ディラ、別に再会の抱擁とかじゃないからっ!」

『え?違うの?僕はすごく再会を喜んでるんだけど』

 だから、30分も離れてなかったでしょう!

 それに、私はイケメンに自分から抱き着くなんてそんなはしたない人間ではない。……いや、日本人はハグをおいそれとする文化じゃないから。

「剣をこうして持つのが一番いいから、こう持っているだけ!それとも、地面を引きずってもいいならそうするけど」

 ディラが泣きそうな顔をする。

『ふ、普通に腰にぶら下げるとか、背中に背負うとか……』

「ごめん、故郷じゃ、剣を腰にぶら下げるのも背中に背負うのも普通じゃなかったから……それに、重たいんだよ」

『重……あ、そうか。女性には重い?いや、でもアイラはもっと太くて重たい剣を振り回してたよなぁ』

 そのアイラさんとやらを基準にしないでっ。絶対普通基準じゃない。

『あ、なんか、そうか。僕、ユキに運んでもらってるってことだよね。男なのに女に荷物持たせるとか……』

 剣は胸元に抱えているけれど、剣に取りついているディラは私の隣に姿を現すようにしてもらってるんで、横顔をちらりと見る。ディラが目に見えて落ち込んだ顔をしている。

『重たいものをユキのように小さくて非力でかわいい女性に荷物を持たせてしまうなんて……死んだ方がましだっ!』

 いや、死んでますけど。

『とは思うけれど……僕は、剣を置いて行ってくれとは言えない……もう、ユキと離れて生きていくなんて、できそうにない……』

 生きてないですよ……。

『ううう、駄目だ、ユキと離れるなんて、無理……』

 イケメン幽霊が泣き出した。

 ……マジ泣きか。

 ディラを抱えて少年、いや青年?大学生くらいの男の子はなんと表現すべきなのか。20歳なんて30歳の私から見たら男の子なんだよなぁ。……のところへ戻ると、青年が真っ青な顔をして私を見た。

 ん?まだ体調悪いのかな?顔が青いけれど。3メートルほどの距離まで近づいて皿とコップを見ると空になってる。ちゃんと食べられたようだ。

 いや、むしろ、食べてお腹でも痛くなっちゃったのかな?

 心配して近づくと、男の子が涙を落とす。

「すまん、食っちまった」

 ちょ、横にはイケメン幽霊が号泣、正面にはガリガリ男の子が号泣。な、なに、この状態……。

「食べてと言ったのは私だから、謝らなくてもいいのよ?」

 私の分を残しておかなかったとかそういうことを謝ってるのかな?気にしなくていいのにと思ったけれどどうも様子が変だ。

 ガタガタと震えて、視線は私の手にもつ剣に注がれている。

「俺、金……、金、ねぇのに……」

 ああ、お金がないことを謝っているのか。

「お金がなくても、大丈夫」

 そもそも食べ物は私の持ち物というより、すでに死んでしまったディラの物だ。

 ディラが今更お金をもらっても仕方がないだろう。というか、私もお金持ってないし……。

「お、お、俺は……」

 涙を流し続ける男の子が、両手を前に突き出して頭を下げた。

「低級民だ……金の代わりに、魔力を差し出すこともできない……」

 お金の代わりに魔力?え?この世界では魔力がお金替わりになることがあるってこと?

 じゃぁ、魔力が多いと言われてた従妹のきららはそれだけで金持ちになったみたいなもの?



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