第12話

 肩まで伸びた濃茶の髪は、バサバサで栄養が取れていないことが分かる。肌は日に焼けてはいるけれどもともとは白いのか、いや褐色?か?なんせ、垢まみれで薄汚れていて分かりにくい。唇がカサカサにひび割れている。

 栄養も取れていないけれど、水分が取れてない。この荒野をどれほどの時間歩いていたのか分からないけれど、水が取れる場所なんてない。

「大丈夫?ねぇ、今、飲むものを出すから」

 収納鞄を開く。何が入っているんだろう。しまった。ディラを置いてくるんじゃなかった。

 いや、たしかテーブルの上には果実水があった。

「テーブルの上にあった果実水」

 と言ってみたらちゃんと出てきた。よし。

 うっすらと、少年の目が開いた。前髪の隙間から見える少年……いや青年?の瞳は黒い。

「頼む、俺を、街まで連れて行って……くれ……」

 と、かすれた声で訴えてきた。

「街へ?行っても中に入ることはできないんでしょ?今はそれよりも、これを飲んで」

 果実水をコップに注いで少年の前に差し出す。倒れて寝ころんだままでは飲めないよね。体を起こしてあげないと。自力で起きれるかな?。

「妹が病気なんだ……街へ行って、薬を……薬を……」

 妹が病気?

「あなたの方がよほど……」

 死にそうに見えるのに、妹さんはもっと死にそうな状態なの?そこまでして街へ薬を取りに行く必要があるの?

 いろいろな疑問はぐいっと飲み込む。

 ポケットに入れたエリクサーの小瓶を取り出し、指の先に少しつけて少年の口に持って行く。水分よりも回復が先よね。

 病気や怪我でなく、単に栄養不良や水分不足で弱っている状態にも効果があるのかは分からない。

 少年が私の指先に視線を向ける。

 説明するのももどかしく、指を少年の口に突っ込んだ。

 おや。痩せてガリガリで弱弱しく見えることは変わらないけれど、上体を起こすだけの力は戻ったようだ。

「何を、した?」

 少年が疑問を口にしたけれど、それよりも先にすることを優先する。

「説明は後でするから、飲んで。ゆっくりね。それから、何か食べられそう?」

 少年が果実水を飲み始めたのを確認して、テーブルの上に載っていた果物を思い出す。

「フルーツの盛り合わせ、出てきた。食べられそうなら食べて。あまり一度にたくさん食べるとお腹が緩くなるといけないから、ゆっくり。いっぱい噛んで、食べ過ぎないようにね」

 なんとなく、病気の時はリンゴのすり下ろしたものや、桃の缶詰を食べた記憶がよみがえり、果物なら弱った体でも大丈夫かな?と果物を出す。

 少年が驚いた顔をして私を見ているけれど、そんな場合ではない。

 急いでディラの元へと戻る。

『よかった、よかった、ユキ、会いたかった~』

 って、まだ5分も経ってない……いや、500mの距離をそんな短時間で行き来できないか。私の体力、日本人30歳女性の平均的なもの

だからね。500m往復、1キロ。そんな距離、日本人女性の8割は走らない生活だと思う。

 剣を抱きかかえるようにして持つ。

『ユキ……あ』

 ディラが、私の背中に両手を回し、顔を私の頭に乗せた。

 絵面だけなら、イケメンに抱きしめられてる。一瞬顔が真っ赤になるけれど。

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