第9話
『うおう、甘い物も美味い~』
天を仰いで、プリンに涙するイケメン。
見ちゃいけないものを見た気がするので、いささかさっきよりもはっきりと見えてるディラから視線を逸らす。
「おさがりいただきます」
プリンは、私が食べたかったので選びました。
もぐもぐ。
うん、手作りプリンの味だ。卵の風味が濃い。しっかりと固さのある蒸しプリン。
甘さは控えめ。懐かしい味のするプリンだ。
「はー、お腹いっぱい。残った料理はどうしたらいいのかな?」
『収納鞄に入れる動作をすれば入るよ』
そうなんだ。
ごちそうさまでした。残りは収納鞄に。
パカリと鞄の蓋を開けて、テーブルごと料理を鞄に入れる動作をすれば、あっという間に吸い込まれるようにしてテーブルと料理が目の前から消えた。
魔法、すごい。
ああ、もう何度目かの魔法に感動!何度見てもすごいよ!
……もしかしたら、魔力があったきららは、いろいろな魔法とかが使えるようになるのかな?あー。今、ちょっとだけ、人生で初めてきららがうらやましいと思っちゃった。
『うわぁーーー、ご飯ぅぅぅぅーーーっ』
目の前に泣き叫ぶイケメン幽霊。
『もっと、もっと食べたいぃぃ、300年ぶりの食事っ!』
あ、ディラがこっちを向いた。
どうしようかな。これ、食べさせなければ呪い殺すぞー系になる?困ったぞ。
でも、おさがり食べきれない。
「こ、これからは、ほら、私がご飯食べるたびに、ちゃんとお供えするからね?毎日私がちゃんとご飯食べられれば、ディラさんも毎日食べられるからね?」
『ああ!そうか!毎日、ご飯』
ディラの目がキラキラとしている。
……あれ?
よく考えたらさ、剣に取りついてる霊だったよね?ってことは、もし呪い殺すぞー系に変貌したら、剣から全速力で逃げ出せばいいんじゃないのかな?
『じゃぁ、夕飯は、ステーキが食べたい、ステーキ。ドラゴンステーキ』
は?ドラゴンステーキ?
いや、だから、ドラゴンってこの世界じゃ弱いの?
牛レベルのモンスターなのかな?
……ディラが食べたいものをお供えする、お供えのお下がりを私が食べる……って図式だと、その、ドラゴンって私も食べることになるよね?
ドラゴンのお肉ってどんな味なの?牛系?それとも爬虫類でトカゲ系?カエル系?
あーっと、未知の食材は先送りしちゃだめですかねぇ?
……いざとなれば剣を置いて……逃げ出す。
逃げる……どっちに?
振り返れば、薄いベールに囲まれた街。
生きていくなら人がいる街に行くべきだろう。地球ならば。
だけれど、どうやらこの世界では私のように魔力0の人間は、人のいるところは危険があるように思う。世界中どこでもというわけではないだろうけれど、少なくとも、あの王様が納めている国……あのベールの中の街では危険そうだ。
かといって……。
前を見ても右を見ても左を見ても、荒野。砂漠ではないのがせめてもの救いなのだろうか。砂嵐には出会わないだろうから。
草木も生えない土と岩の地面が延々と続いている。
どれくらい歩けば、水や食べ物がなんとか手に入りそうな場所にたどり着くのやら。
手持ちは、ディラからもらったエリクサーと収納鞄。
……と、剣。
「ディラ、このあたりのこと詳しい?どっちに進めば街とかあるのかな?」
ディラが自信満々に口を開いた。
『この場所は、300年前魔王と勇者パーティーが最終決戦を行った場所だ。激しい戦いの末、不毛の土地になった。争いの戦火を免れるために、王都には賢者が結界をめぐらせた。中から外へは出られるけれど、外から中へは命あるものは入ることができない結界だ』
ディラがヴェールに包まれた街を指さす。
賢者が施した結界?
中から外へは出られるけれど、外から中へは入れない……のか。
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