第5話

 眉目秀麗って単語はこういう人に使うんだろうと思った。

 人生に置いて初めて眉目秀麗な男に出会った。って、幽霊だよっ!ってことは人生においてまだ眉目秀麗な男の人には出会ってないってことだ。

 深い青の瞳。二重でまつげも長い。鼻筋は通って、彫は深いけれど、深すぎない。細い顎に賢そうな額。金の髪は、前髪は短め、サイドと後ろは少し長めだ。口元はふっくらしているけれど、女性的ではなく男性らしい引き締まり方をしている。

「せっかくのイケメンなのに……」

 憐れむような目で見る。

 幽霊だから、私のようにこの美しい姿を目にできる人は少ないだろう。さらに、こんな人気のない荒野の地縛霊じゃぁ、さらに人が目にすることはなさそうだ。っていうか、そもそも、年齢は30歳前後だろうか。

 こんなイケメン盛りに死んじゃったなんてかわいそうすぎる。

『あー、何だ、その目は?』

「何でもないです。あの、これ、ありがとう」

 小瓶に蓋をして、幽霊に差し出す。

『いや、返さなくてもいい。どうせもう僕には使えないから……もらって。あ、そうだ、もらってといえば、そっち、その辺も掘ってくれないか?』

 ふと、花さか爺さんのここ掘れわんわんを思い出した。

 掘れと言われれば、まぁ、エリクサーのお礼もありますし、掘りますが……。手で掘るのは割と大変で、何かないかな?

 スコップなんて贅沢は言わないけれど、木の棒でもあれば……。

 幽霊の足元を見ると、いいものを発見。

 足元に落ちていた鞘に収まった剣を持ち上げて、示された場所をがつがつと剣でつついた。

『あー、あー、あー、やめて、やめて、やめてー』

 うるさいなぁ。

 掘れと言ったのはそっちでしょ。と、振り返ると幽霊の姿は消えていた。

「え?どこ行ったの?地縛霊なのに、どっか行っちゃった?いや、それとも……成仏?」

 やめてくれーという言葉を最後に、天に昇って行った?

 剣を抱えて首をかしげる。

『あー、抱きしめられるのも悪くはないんだけど……、剣で地面を掘り返そうとするのはやめてもらえないか?』

 は?

 抱きしめ?

 顔をあげると、目の前にイケメン幽霊の顔が!

「ひぃっ!」

 驚いて後ろに飛びのくと、出っ張っていた石にけっつまづいてしりもちをついた。手にしていた剣がひゅんっと、イケメン幽霊ともに飛んでいく。

 あああああ!地縛霊じゃなくて、あの剣に取りついてたのか、あれ……。

 やばいかも……。背中につつーっと冷や汗が垂れる。

 取りついてしまうほど、こだわりを持っている剣を、スコップ代わりに地面を掘り返そうとした挙句、今、乱暴に投げ捨ててしまった。

 大切にしてるものに何をするーと、霊が怒りに満ちて豹変する可能性……。

『あ、ほら、ちょっと見えてる。それそれ、それだよ、掘り出して』

 イケメン幽霊の言われるままさっき掘ったあたりをしゃがみ込んで土をかき分ける。

 怒ってない?

 怒らせないように、とりあえず言われるままに行動。

「これかな?」

 土まみれになった手。ああ、爪の中にも土が入り込んでるよなぁ。……いくら美容に気を使わない三十路喪女とはいえ、不潔にしていたわけじゃない。

 爪の中の土は嫌だなぁ……。手を洗いたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る