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『転生』というものは、実は気軽にするものらしい。
死後の世界なんて誰も知らないから判明していないだけで、もしかしたら誰もがすることなのかもしれない。
そうじゃないと、平凡だった『僕』がこうして二度目の人生を送っているなんておかしい。
特別なことは、特別な人間にしか与えられないはずだ。
だから僕に与えられたのは、きっと『平凡な転生』なのだろう。
そういう考えに至った理由はいくつかある。
まず、漫画やアニメでよくある『ファンタジーな世界に転生』ではなかった。
前世と同じ世界――日本で平凡な男子高校生をしている。
名前も
もちろん、魔法のような超能力もなく、見た目も身体能力も平凡だ。
ある日突然ダンジョンができて、世界は大混乱に陥ったが、僕にはダンジョンを攻略できるチートな能力が備わっていた! ……な展開を待っていた時期もあったが、そんなものは夢物語でしかないとすでに諦めた。
平和なのはいいことだ。
今ではわくわくする冒険よりも、安定した生活を望んでいる。
そして、僕が平凡な転生をしていると思い至った最大の理由――。
それは……『僕の言動や行動が無意識に調整されるから』だ。
どういうことかというと、僕は本来根暗な人間だ。
いわゆる『陰キャ』なのだが、口を開けばなぜか勝手に陽気な人間、『陽キャ』に仕上がってしまう。
しかもただ陽気なのではなく、チャラい。
子供の頃の具体例をあげよう。
これは僕が「自分に与えられた運命」に気づくことになったきっかけでもある事件だ。
幼稚園に通っていた僕のクラスには、大学を出たばかりのフレッシュで可愛い先生がいた。
対応が丁寧で、いつもニコニコしていて、子供が好きだということが分かる人柄だった。
当時の僕は、彼女をとても慕っていた。
だから、ふと「先生は優しくて可愛くて好きです」と伝えようと口を開いたら――。
「先生、可愛いじゃん! 日曜日、海に行こうよ! どんな水着着るの? オレ、攻めてるの見たいなあ~!」
僕の口からはそんな言葉が出ていた。
先生は戸惑いながらも、「圭太くんは面白いねえ」と褒めてくれたが、僕は呆然とした。
どう考えても自分が犯人なのに、「今のチャラいお子様、誰?」と、思わず周囲を確認してしまった。
だが、周りには僕と先生しかいなくて……。
信じられなかったが、やっぱり先ほどの恥ずかしいセリフは、自分の口から出たものだった。
この出来事以降、自分のことを「僕」ではなく、無意識に「オレ」と言うようになった。
そして、自分の意志とは反したチャラい発言もするようになった。
折り紙を持って「先生何色が好き?」と聞いたつもりなのに、「先生、今はいてるパンツ何色~?」と言ってしまう恐怖。
幼稚園児だったからセクハラで訴えられずにすんだが、SNSで「セクハラ幼稚園児」として取り上げられたら、間違いなく僕は親と共に炎上していただろう。
そのうち発言だけではなく、意志とは違う行動もとるようになった。
前世で読書好きだった僕は、今世でもよく本を読んだ。
だから、いつも手に図鑑や小説を持っていたのだが……それがいつの間にか父親秘蔵のグラビア写真集に代わった。
自分に絶望だ。巻き込みにはなるが、際どいグラビアを大事に隠している父親にも絶望した。
勝手にチャラく陽気な言動をする――これを僕は『陽キャオート』と呼んでいるのだが、成長と共に症状は悪化した。
女の子とまともに話すことなく死んだため、「女子に話しかける」という行動は、本来の僕にとってはとてもハードルの高い行動なのだが、頻繁にナンパをするようになった。
前世では校則はきっちり守り、真っ白な無地靴下で中高六年間通った僕が、髪を金に染め、ピアスをつけ、派手な容姿になった。
前世ではバリカンを使って自分で切るか、父親と同じ理髪店にしか行かなかった男が、毎月ヘアサロンに通っているなんて信じられない。
本来の「僕」とはかけ離れた「オレ」になる陽キャオートは、おそらくこの世界が僕に与えた役割を果たすためのものだと思っている。
つまり、僕は『チャラ男モブ』に転生した、ということだと結論付けた。
強制的に本質を変えられることが苦痛で、なんとか陽キャオートが解けないか試行錯誤をして生きてきたが無駄だった。
だから、これはもう僕……いや、オレに与えられた運命だと思い、受け入れることにしている。
常に陽キャオートが入るわけではないし、女の子がいないところでは、比較的本来の自分でいられることも分かった。
それに、チャラい自分にも慣れてきたのでなんとか生きていけるだろう。
そんな「中身は陰キャ、外身は陽キャ」で生きてきたオレは、現在高校生だ。
休日の土曜日。
今日も今日とて、オレは元気にナンパに励んでいた。
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