3

「圭太、あの二人組の子はどうだ? 声かけて来いよ」


 そうオレに話しかけてきたのは、親友の桐堂迅きりどうじんだ。

 ナンパするときは大体こいつと一緒だ。

 でも、協力して女の子に声をかけるわけではなく、迅はオレについて来るだけ。

 本来の「僕」なら、ナンパの声掛け係をやらされるなんて苦痛の極みだが、陽キャオートが働いているので大丈夫だ。


 それに、迅は顔がいいので、黙っていてもナンパに貢献している。

 黒髪のクール系イケメンで、連れとして存在しているだけでナンパ成功率が爆上がりするのだ。

 それぞれの特技、適材適所でやっているのでwin-winと言えるが……ついて来てくれた女の子たちはみんな迅の方に行ってしまうので、オレはwinをあまり感じない。

 でも、前世では一緒にふざけることができるような友達がいなかったので、こうして遊ぶのは楽しい。

 だから不満はない。


「どこ? あー……」


 迅の視線の先を見ると、確かに可愛い女の子達がいた。

 でも、外見がチャラいオレが言うなと怒られそうだが、遊んでいそうな印象のギャルだった。

 迅はギャルが好きだが、オレは落ち着いた印象の子の方が好きだ。

 まあ、好み関係なく「可愛い」と思ったら、陽キャオートで声をかけまくるが……。


「?」


 今回も本当は乗り気ではないが、陽キャオートによってナンパに向かうと思ったのだが……なぜかオレは動かなかった。

 陽キャオートが発動しない?

 動かないオレを見て、迅も不思議に思ったようで声をかけてきた。


「声かけないのか? まあ、今日は土曜で人が多いからな。もっと可愛い子に会えそうだよな」

「あ、ああ……」


 通り過ぎていくギャル二人組を見ると、ちらりとこちらを見ていた。

 声をかけていたら、多分成功していただろう。

 でも、陽キャオートなしのオレが声をかけに行けるわけがない。

 次の出会いを求めて、休日で多くなっている人の波に目を向けた。


 すると、かなり離れたところを一人で歩いている女の子が気になった。

 遠くにいる子でも、可愛い子は見逃さないよう、オレの目は鍛えられている。

 ナンパ時のオレの視力は、サバンナで獲物を狩っている超身体能力部族にも負けない自信がある。


 そんなオレの視力をもってしても、その女の子の姿はまだはっきり見えないが、清楚系でお洒落な印象を抱いた。


「どうしたか? 可愛い子がいたか?」

「…………」


 ……どうしてだろう。

 人の流れに沿ってこちらにやってくる、その子から目が離せない。

 こんなにたくさん人がいるのに、まるで世界にはあの子しかいないようだ。

 彼女に集中してしまい、迅を構う余裕もない。


 オレと迅のナンパルールは、「一対一になれるように二人組に声をかける」なので、一人でいるあの子は対象外になるのだが、ずっと目で追ってしまう。


 彼女との距離が大分縮まり、姿がはっきりと見えるようになってきた。


「お前が見ているのってあの子か?」

「…………っ!」


 その子の姿がはっきり分かった瞬間、オレは自分に与えられていた本当の運命を悟った。

 そして迅を置いたまま、彼女の元へ向かい、ナンパをしたわけだが……。


 まさかのナンパ成功!!!!


 嬉しいよりも、混乱が勝る。

 どうなっているのだ?

『この子をナンパすることがオレの運命』だと、謎の自信があるので間違っていない……はず。


 一体どうすればいいんだ!?

 モブのオレが、ヒロイン(推定)のナンパに成功してしまっていいわけがない。


「おいおい。一人の子に声をかけるなよ。……ごめんね、男二人と一緒に遊ぶのはためらうよね?」

「迅…………はっ!」


 オレを追いかけてきた迅を見て気づいた。

 まさか、お前がラブコメ主人公だったのか!?

 そうだとすれば、迅の顔がいいことも納得できる。

 なるほど、オレはお前のお膳立てをする係だったのか……。


「はい。ですから、私はこの方と二人きりで遊びます」

「え?」

「は?」


 彼女が「この方」と言って腕を掴んだのはオレだった。

 思わず白くて綺麗な手に掴まれている自分の腕を凝視してしまった。


「あの……これ、オレの腕だけど?」

「え? あっ! 勝手に腕を掴んでしまってすみませんっ」


 そう言って慌てて離れたが、そういうことではなくて……!

 むしろ可愛い女の子に腕を掴まれているのは嬉しかった。


「…………」


 視線を感じるな、と思ったら、迅が複雑そうな顔でオレを見ていた。

 どことなくオレを責める空気を感じるが、オレは悪くない!


「おい、あんたたち。二人がかりで強引に誘うのはどうなんだ?」

「?」


 突然外野から声を掛けられた。

 そちらに目を向けると、オレ達と同年代の男がいた。

 顔は普通だが、興味がないふりをしながらも堂々と物申してくるこの感じ――。

 もしや、こいつこそラブコメ主人公か!?


「行きましょう」

「え? あ……」


 そう言って彼女は、オレの服の袖を引いて歩き始めた。

 腕を掴まないようにしてくれたようだが、遠慮しながらも強引なこの感じが可愛い……。

 なんてついニヤけてしまったが、オレはこのまま彼女と進んでもいいのだろうか。

 振り返ると、ラブコメ主人公候補達が立ち尽くしていた。


 この状況、どうすればいいのだ?

 物語として間違ってないか?

 ……というか、この世界は本当に『ラブコメの世界』なのだろうか?

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