第20話 伝説の剣?


「ん? なんだあの剣」


 奥に一本だけポツンと剣が飾られている。近寄って手に取ってみると……。


「なんだこの軽さ……!」


 さっきの剣よりも若干大きいくらいなのに明らかにこっちのほうが軽い。


「変わった金属だね。見たことないな。なにでできてるんだろう?」


 ルナがコンコンと剣をノックする。


「ほう。その剣を手に取るとはお目が高い」


 店の奥から渋い声が聞こえた。のれんをかき分けながら若いお兄さんが姿を見せた。

 なんだあの体格……!?

 腕の太さが俺の太ももくらいはある。胸板もぶ厚く恐ろしくガタイがいい。

 お兄さんはかわいらしいウサギの刺しゅう入が入った前掛けをしている。

 めちゃくちゃ強そうだ。というか絶対俺より強い。


「その剣はグラフタイトという特殊な金属で作ってある。遥か北の山脈でしか取れない極めて希少な金属だ。切れ味は抜群だぜ」

「本当に軽い。それになんだか手になじむ気がする」


 手に持った剣をながめているとサーニャが後ろからのぞき込んできた。


「なあに? それが気に入ったの? いい剣じゃない。せっかくだし買っていけば?」

「……ああ! この剣に決めた! お兄さん、この剣をください」

「まいどあり。その剣は200万リーンだぜ」

「じゃあ、お金を……え!? あの、おいくらでしたっけ?」

「200万リーンだぜ」


 なんだよそのめちゃくちゃな値段!?


「……ちなみにあの剣はいくらですか?」


 俺はルナが最初に選んでくれた剣を指さした。


「あの剣は1万リーンだぜ」

「ええっ! なんでそんなに違うの!?」

「向こうの剣は普通の鉄で作ってあるんだよ。それに対して兄ちゃんが持ってるグラフカリバーは希少金属のグラフタイトで作ってある。つまり材料費が違うってわけさ。さらに、グラフタイトを打つには専用の特殊工具とスキルが必要なんだ。そういった費用を含めるとどうしても高額になっちまう。だが、自分で言うのもなんだが、グラフタイトを打てる鍛冶師は世界中探してもそうはいないはずだぜ」

「そうなんですか……。でも200万なんて大金とても払えないしなあ。しかたない、じゃ、あっちの鉄の剣を……」


 と、俺が200万の剣を戻そうとした時。


「ちょっと待ったああああああ!」

「ど、どうしたんだよサーニャ。怖い顔して」

「怖くないわよ! ……じゃなくって。ちょっとジット! なにしてんのよ」

「なにって、お金を払おうとしてただけだけど」

「そうじゃないわよ。こういう時は値切るのがマナーなのよ!」

「そんなマナー初めて聞いたな……」

「んもう! これだから素人は」


 肩を軽くすくめながら両手のてのひらを天井に向けて「やれやれ」と顔を左右に振るサーニャ。


「いいジット? 武器っていうのは高い買い物なんだから値段交渉しなきゃ! まけてもらうのよ! 値切るのよ! ディスカウントプリーズ!」

「いや、でも1万なら持ってるし」

「違うわよ! グラフカリバーよ! あの剣、相当すごいわよ! 手に入れるのよ、グラフカリバーを!」


 いつになく真剣な表情のサーニャが、顔の真ん前まで迫って力説してくる。


「な、なるほどな」


 サーニャの気迫に押され、体を後ろに逃がしながら答えた。

 でも値切るっつっても200万だぞ。まけてもらったところでとても買える額じゃない。いったいどうする気だ?


「ああ、もちろん値段交渉可能だぜ」


 お兄さんがニタリと口角を上げる。たぶん本人は笑顔のつもりなんだろうけど、ごついせいか、はたから見るとかなり怖い。


「私たちこれから強敵と戦いに行くの! できるだけ強い武器が欲しいのよ。この剣はぜひ譲ってもらうわ!」

「ほう……強敵を? 何か事情がありそうだな。よし。いくらがいいんだい? 言ってみな」

「じゃあ100で! 100でお願い、お兄さん!」

「100万か……。いきなり大きく出たな。見かけによらず大胆な嬢ちゃんだぜ。そうだな……」


 お兄さんはあごに手を当てると目を細めながら考え込む。


「ううん、違うわ。100リーンよ、お兄さん。100リーンで譲って!」

「……………………………………カハッ!?」


 後ろにのけぞったお兄さんが倒れる寸前で足を踏ん張ってこらえる。そして若干痙攣する指先を額に当てる。


「どうかしら。売ってくれる?」

「……脳が揺れたぜ、お嬢さん。いくらなんでもそいつぁ大胆すぎる要求だ。そんなことしたら店がつぶれちまうよ。……ガチでな」

「私たちは世界を救いに行くのよ! 命がけで! それも無償で! 無償でね! そう無償! お兄さんよりもずっと若い私たちがね! 無償で!」


 胸に手を当てながら迫真の表情で、やたらと無償を強調するサーニャ。


「……へっ、言ってくれるぜ。い、いいだろう……。ぐっ! く……。ひゃ、100万に負けてやる……。俺が命がけで打ったコイツ、あんたたちに譲るぜ」


 苦虫をかみつぶしたような顔をしながら脂汗を流し、震え声で言うお兄さん。


「わかったわ。500リーンでどう?」

「ほげえっ!?」

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