第13話 少女騎士


 この子と組むか考え込んでいるとサーニャがひそひそと話しかけてきた。


『ねえ、組みましょうよ』

『どうしたんだよ急に』

『だってバトルクレリックよ。戦力としては申し分ないわ。それにカラフ城には物騒なうわさもあるみたいだし、万が一なにかあった時に頼もしい味方がいたほうがいいわよ。というかむしろこっちからお願いしたいくらいだわ』

『ふむ……』


 ルナに目を向けると、たしかにその佇まいには隙がないような気がする。

 もし組まなかったらこの子はライバルになるってことだよな。向こうが先に女の子を見つけたら俺たちは懸賞金が手に入らない。食事代が払えず食い逃げ勇者が完成。……この年で捕まるのはごめんだ。


「そうだな。協力しよう。俺たちだけで探すのは骨が折れそうだしさ」

「やったー! よかったあ。断られるんじゃないかってドキドキしてたんだ。じゃあよろしくね、二人とも!」


 分け前が減るのは痛いけどゼロになるよりマシだ。俺たちはただでさえ金がないんだから。


「俺はジット。隣にいるサーニャと旅をしてるんだ。といっても昨日、村を出たばかりなんだけどさ」

「サーニャよ。よろしくね、ルナ。こうみえても私、呪術師なのよ。呪いたい相手がいたら、いつでも言ってね! 割引料金で請け負うから!」


 親指を立てながら物騒なことをさらっと笑顔で言うサーニャ。


「なんだよ呪いたい相手って。しかも有料かよ」

「あら? お金さえ払えばジットの依頼も受けてあげるわよ? まあさすがに211リーンじゃ無理だけど! ぷぷぷ」


 サーニャは手を口に当て、少し前かがみになりながら小馬鹿にしたように笑いを漏らす。0リーンなのにね。


「あはは、じゃあ何かあった時はサーニャにお願いするから! ヨロシクねっ!」


 笑顔あふれるルナのよく通る声が店内に響く。


「じゃあ早速出かけましょうか。暗くなってからじゃ捜索もしづらいでしょうし。なにより女の子がいなくなってから四日も経ってるわけでしょ? 安否が心配だわ」


 サーニャの提言はもっともだ。ちょうど食事も終わってるしこのままカラフ城を目指そう。


「それは俺も気になってた。じゃあ早速行くか!」

「気をつけてね、みんな。無理はしないで」

「あ、食事代後で必ず払いますから!」


 まだ払ってない昼食代のことを思い出して慌てて付け足した。


「ふふ、待ってるわね」


 ゆっくと左右に手を振るレイナさんに見送られて、俺たちはスタイラを後にした。

 カフェを出て大通りへ戻り、北へ向かって道なりに進む。

 街の中心部にはクエスト掲示板が設置されていた。


「はえ~、すっごい量。これだけあったら一生クエストできるわね」


 腰に手を当てながら掲示板に貼られている大量のクエスト用紙に顔を近づけるサーニャ。


「あ、あったわよ! 例のカラフ城の依頼」


 そこには賞金30万リーンの文字もしっかりと刻まれている。

 サーニャがふらふらとその文字に惹きつけられる。


「30万……」


 言いながらごくりと喉を鳴らす。


「賞金は早い者勝ち……。はっ! こんなところでうかうかしてらんないわ! 急ぐわよ二人とも! 私たちの30万! 待ってなさーーーーーい!」

「お、おい! 走るなよ……」


 北門目掛けて、もんのすごい勢いで走り去っていくサーニャ。その後ろ姿があっという間に小さくなる。


「元気だねえ、サーニャ」


 もはや米粒ほどの大きさのサーニャを見てルナが感心する。

 ルナがふいに俺の顔をのぞき込む。


「ねえねえ、ジットとサーニャはなんで旅をしてるの?」

「それは……」


 北門へ歩きながらルナにフォリドのことを話した。


「へえ。そのフォリドっていうのを倒すために旅をしてるんだね」

「といってもどこにいるのかもわからないんだけどさ」


 ふと、ルナの大きな杖が目に入った。


「その杖、かなり大きいよな」

「うん! これは戦杖<バトルロッド>。戦闘で使うんだよ。カラフ城って幽霊が出るって噂でしょ? もしかしたら使うことになるかもね」


 幽霊か。目撃情報が多発してるらしいけど。はたしてそんなものが本当にいるんだろうか。


「……あ! 北門が見えてきた!」


 北門の周囲にサーニャの姿は見当たらない。


「サーニャがいないな。まさか一人で城まで行っちゃったのか? 幽霊が出るとか言われてるのに不用心だな。まったく……」


 サーニャを追って北東へ歩くと、ほどなくしてカラフ城が見えてきた。街から目と鼻の距離だ。


「古いな。……昔はさぞ立派な城だったんだろうけど」


 視線の先にそびえ立つ年季の入った古城。

 重量感のある石造りの佇まい。その巨大さによって、空の一部が隠れてしまう。


「いかにも"出そう"だねえ。あ! サーニャってばあんな所に。おーい! サーニャー!」


 頭の上で大きく手を振るルナ。

 城門の前には、なぜか準備体操をしているサーニャの姿が。両手を腰に当て、体を後ろにそらせていたサーニャはルナの呼びかけに気づくと。


「んもう、遅いじゃないの二人とも! ずっと待ってたんだからね。さ、早く行くわよ!」


 サーニャが、立てた親指で背後の城門を指さす。

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