第7話 輪廻の光


「リリトル? 何の話? それよりも……」


 そういうとサーニャは草むらに向かって叫んだ。


「もしもーし! 誰かいるのー?」


 ……なんだ? こんな場面、さっきも……。


「グルルル……」


 草むらからリリトルが飛び出した。


「まあ、めずらしい! リリトルよ。よくわかったわね」


 何が起こってる……?


「それにしてもどうしてこんなところにリリトルが? 森に住む生き物なのに」


 なぜだ? 今、目の前にいるリリトル……。……一匹目とそっくりだ。そもそも一匹目はどこに消えた? サーニャの様子も変だし。

 嫌な予感がする。

 と、リリトルが突然、ボを放ってきた。


「……」

「えっ!」


 ボは"先ほどと同じ軌道"でこちらに飛んできたため簡単にかわせた。

 そして先ほどと同じように地面に当たり、はじけて消えた。

 リリトルの動きまでまるでさっきと同じだ。

 サーニャも先ほどのように驚きの表情を見せながらボを回避した。

 ……さっきは、この後に俺が「今のは?」って聞いたら「ボ」ってサーニャが答えたんだっけ。……じゃあ質問しなければどうなる?


「……」

「大丈夫? ジット」

「ああ、問題ない」

「さっすが勇者ね!」


 さっきと反応が違う……。


「ボには大した破壊力もないし、別に焦ることもないよな」

「知ってたんだ。さっすがジット!」


 ストレートに感心するサーニャ。


「え!? あ、うん……まあ……」


 いや、君に教えてもらったんだけどね。

 なんだかまるでカンニングしたような気分だ。

 まあそれはいいとして。


「たぶん次は連続でボが来る」

「えっ、なんでわかるの!? 動きの癖とか? もう相手の癖を見切ったの!?」


 取り乱しながら質問をぶつけてくるサーニャ。


「あ、えっと……。な、なんとなくわかるんだよ。うん……」


 さっきの通りならそろそろボが連続で飛んでくるはずだ。

 どうだ……?

 その時。やはり先ほどと同様にリリトルがボを連続で放ってきた。


「うおおっ!?」


 危なっ!

 一度見ているとはいえ、連続で撃たれるとキツイ……。

 サーニャは先ほどよりもさらに華麗にすべてのボをかわした。

 俺はというと、自分でも無駄が多いとわかるくらい無駄に動き回り、ぎりぎりですべてのボをかわすことができた。


「よおし!」


 乗り切ったぞ! 全部かわした!

 さっきはこの後、光に包まれたが……。

 さあ、今度はどうなる?

 その時だった。


「な……!?」


 周囲が急速に白で覆われ、みるみるうちに視界が奪われる。

 これは……さっきと同じ現象!? なんでだよ!? すべて避けただろ!?


「馬鹿……な……」


 ほどなくして霧は晴れ、目の前に平原が広がる。そして。


「リリトルがいない……」


 目の前から姿を消すリリトル。


「リリトル?」


 不思議そうな顔で俺を見るサーニャ。

 そして。

 目の前の茂みからガサガサと物音が……。


「そこの茂みにリリトルがいる」

「えっ?」


 すると、またリリトルが姿を現した。

 リリトルは「グルルル……」と、先ほどと同じうなり声をあげる。

 またここからか……。


「すごい! どうしてわかったの!?」

「まあ……なんとなくだよ」


 驚きとも感動ともとれる表情をこちらに向けるサーニャ。

 なぜだ!? なぜまた戻った?

 一回目はボを食らったタイミングで戻った。じゃあ二回目は? すべてのボをかわしたはずだぞ……! じゃあなんで!?


 ……落ち着け! 落ち着いて考えろ。

 一回目の巻き戻りはおそらくボを食らったことが原因だろう。

 ラティナの『決して傷を負ってはならない』とはたぶんこのことだったんだ。

 おそらくは"わずかにでもダメージを食らうとダメージを食らう前の状態まで時間が巻き戻る"といったところだろう。しかし……。


 それでは二回目の説明がつかない。二回目はダメージを負っていないはず……!

 それとも俺が気づかなかっただけで、ボにかすったのか? たしかに無駄の多い動きだったし十分に考えられる。

 もしくは他に何らかの未知なるルールでもあるのか?

 でもラティナが伝えた制約は『傷を負うな』だけだったはず。それ以外にも制約があるのか? ……もしかして言い忘れてたとか? ……あいつのことだ。十分あり得る。

 『ごっめーん! うっかり言うの忘れてた! あはは!』って感じで。

 だとしたら知らず知らずのうちに何らかの未知なる禁忌<タブー>に触れたのか?

 ……わからない! いったい何が……。


「こんな場所にリリトルがいるなんて。めずらしいわね」

「そうだな……」


 三回目ともなるとさすがに慣れてくるな。慣れてくるというか飽きた。

 ………………お、撃つぞ。

 と、思うとほぼ同時にリリトルが単発のボを打ってきた。モーションまで同じだからかなり正確にタイミングがわかる。


「ワー、いたずら好きのリリトルがボを打ってきたゾー。威力はほとんどないけどー」

「あの……心なしか声に感情がこもってない気がするんだけど……」

「えっ、ほんとお? そんなことないよお」

「そ、そっか」


 俺たちはボをあっさりとかわした。

 さすがにこれを食らうことはないが……。問題は次だ。


「サーニャ。次は連続で来るから気を付けろよ!」

「え!? な、なんでわかるの!?」

「……勇者の勘だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る