第2話
「それじゃ、ふつつか者ですが。これから一週間、よろしくね、
「あ、これはどうも、ご丁寧に……」
星花女子学園にほど近い、教員寮。
放課後、めぐみ先生の部屋に連れ込まれた紗幸は、深々と頭を下げて……、
「って、説明が足りなぁーい! 何なわけ、いきなり初対面の女の人と同棲とか!?」
どうしてこうなったか、記憶の糸を辿る。
「そうだ、思い出してきた……。類まれな美貌でおなじみのわたし様、誕生日の動画で歴史のクイズをやろうとして……。で、合宿でもしようかな、とか呟いたら……」
「そう、先生に白羽の矢が立ったわけです!」
ぽふん、と自慢のお胸を叩く、美人教師。
「紗幸ちゃん、星花女子に転校してきたばかりだし。学園に慣れてもらうのとか、色々都合良いんじゃないかって、ママさんと学園でお話したみたいよ」
「ふぅーん。でもさぁ」
そこで紗幸、悪戯っぽく笑って、
「ふぃひひ。わたし様ってば、『歩く百科事典』なんて呼ばれてるし。今さら、先生に教えてもらうことなんて、有るかなぁ?」
「む。先生は、本職よ? じゃあ、さっそく何問か出してみましょうか」
挑発されて、めぐみ先生は日本史クイズを出題する。
第1問・江戸末期、老中水野忠邦による天保の改革。以下の内、その内容に含まれないものはどれ?
A・川越藩、庄内藩、長岡藩の藩主を入れ替える「三方領地替え」。
B・江戸に出ていた農民を、故郷に戻し農業に専念させようとした、「人返し令」。
C・大名や江戸の町々へ、飢饉対策として備蓄を行わせた「囲い米」制度。
D・歌舞伎役者、7代目市川
第2問・戦国時代の主な合戦4つを、時代が早い順に並び変えよ。
A・姉川の戦い
B・川中島の戦い(第4次)
C・長篠の戦い
D・厳島の戦い
第3問・以下の3つの和歌集で、天皇、上皇の命により編纂された勅撰和歌集でないのはどれ?
A・万葉集
B・古今和歌集
C・新古今和歌集
【正解は後書きで!】
そしてクイズ姫紗幸は、当然のように全問正解で、胸を張る。
「ふぇははははは! 簡単簡単!」
「くぅ、厳島の戦いなんて、まずテストに出ないのに……!」
悔しがる、めぐみん先生。ほら、大したコト無いじゃん♪と紗幸に煽られて、頬を膨らませる。
「で、でもでも! 先生、アイドルにも詳しいから。アイドルクイズなら、紗幸ちゃんにも負けないよ」
と、めぐみん先生強がるから。芸能クイズにも強い紗幸、リクエストに応え、女性アイドルのクイズを出題してみる。
「去年トレンドにも入った、『VS
「リーダーの中野くん! ちなみに暴投を反省したゆりりんは猛特訓して、巨神軍の試合での始球式ではね、ワンバウンドはしたものの見事成功させて、その時の球速はね……」
「聞いてない。そこまで聞いてないから」
瞳を輝かせるめぐみん先生。紗幸の出題に、答えを10倍にして返して来る。
クイズ姫、多賀島紗幸。アイドルオタクに完全敗北。
「ぬむむぅぅ……! どんなクイズだろうと、この、わたし様が負けるなんて……!」
「ふふふー。アイドル博士への道は、険しいのよ?」
胸を張る、めぐみん先生。けど、紗幸も強い子、へこたれない。
「よぉし、先生! アイドル関連の本とか、全部持ってきて! 次は、全部答えられるようにするから!」
「おぉー、燃えてるわね紗幸ちゃん! よし、では先生のことは、師匠と呼ぶように!」
「それ同じ意味だよね? まあいいや、ガンガン鍛えて下さい、師匠ぉぉぉ!」
こうして、厳しくも愛のある、アイドルオタクとしての特訓が始まったのである。
1時間後。
「『
108人いるアイドルグループの、メンバーの情報を脳内に叩き込む紗幸。
ふと、気付いた。
「待って。わたし、アイドル博士なんて目指してないんだけど!?」
歴史のお勉強合宿に来たはず!
思い出した紗幸は、
「ちょっとぉ。師匠……じゃなくて、めぐみ先生! どういうこと……」
猛抗議し掛けるけれど。
「……寝てるし」
腕を枕に、すやすや寝息を立てる先生。幸せそうな顔で、何やら寝言を呟いている。
「えへへぇ……ホワイトロリータ美味しい……」
「……お菓子の話だよね? 妙に寒気を感じるんですケド」
紗幸は、肩を揺すって起こそうとし、
「
思わず、どきんとして。誰に聞かれてるわけでもないのに、つい赤くなって、周りを見回した。
そのくせ、距離が近くて、テンション高くて騒がしい、変な人。
(そして……綺麗な人)
整った目鼻立ちに、豊かな胸は、とっても大人のお姉さんなのに。目の前の無防備な寝顔は、ひどく幼さを感じさせて、愛くるしく。
淡くルージュを引いた、薔薇の唇へ、紗幸は思わず引き寄せられて……。
(……ふん。わたしだって動画も配信してるし、テレビにだって出てるし。美人なんて見慣れてる。女優のあの子の方がよっぽど……)
なんて、心で悪態突きながらも、胸の高鳴りは鎮まらなくて。
そのままキス……、
「えいっ」
ではなく、デコピンをした。
「あ痛ぁ!?」
涙目のめぐみん先生へ、紗幸は、にかっと笑いながら、
「ふぇひひ。隙だらけだぞー?」
この、愉快な同居人との生活を、楽しんでみようかなんて、思うのだった。
「しっかりしてよね。わたしに、色々教えてくれるんでしょう、先生?」
※ ※ ※
【後書き1】クイズの回答
第1問・C 囲い米
「囲い米」自体は幕府が度々推奨しているが、江戸の町にも行わせたのは、松平定信の寛政の改革。
Bの「人返し令」とほぼ同じ内容の「旧里帰農令」も寛政の改革で行われているが、強制力はなかった。
第2問・D-B-A-C
姉川の戦い 1570年 織田信長・徳川家康連合軍VS浅井長政・朝倉義景連合軍
第4次川中島の戦い 1561年 武田信玄と上杉謙信の、最大の激突
長篠の戦い 1575年 織田信長が、大量の鉄砲で武田騎馬軍団を撃破
厳島の戦い 1555年 中国地方の雄、毛利元就の飛躍の契機となった戦
第3問・A 万葉集
古今和歌集は醍醐天皇、新古今は後鳥羽上皇の命により編纂された。
万葉集はもっとも古く、成立の経緯も不明。
【後書き2】星花女子辞典
・「
結成20年を迎える、男性5人組の国民的アイドルグループ。
・ゆりりん(あだ名)
星花の生徒でもある、アイドル美滝百合葉の通称。
・「
「108人は、多過ぎた」という、プロデューサーの愚痴ともとれるキャッチコピーでお馴染みの、女性アイドルグループ。
めぐみ先生は、全員のフルネームに年齢、出身地、趣味から3サイズまで、あらゆる情報を把握している。
・ひさかべちゃん(あだ名)
椚坂の不動のセンター、アイドル
星花女子に通っているが、美滝百合葉と違い、学園では芸能人であることを隠している。
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