先生。恋のQuizが解けません!

百合宮 伯爵

第1話

 おさかなクイズ。


 第1問。ズワイガニ、タラバガニ、ワタリガニ。実はカニではないのは、どれ?


 第2問。ナマズ類の魚が、全身で感じ取れるのは、聴覚、味覚、嗅覚のうちのどれ?


 第3問。クマノミ。真鯛マダイ。ホンソメワケベラ。これらの魚に共通する特徴は何?


【正解は後書きで!】


魚魚魚ギョギョギョ-っ!? まさかの全問正解!? お魚苦手って言ってたのに!」


 テレビのクイズ番組。問題を作った、魚の帽子の魚類学者が驚く前で、高笑いを上げる、ツインテールの女の子。


「ふぇははははははは! わたし様に、解けないクイズなんて、無ぁーいっ!!」


 明るい栗色の髪を、ぴょこぴょこ跳ねるツインテールに。13歳の小柄な身体を、お気に入りのゴスロリドレスに包んだ、その姿。

 キュートな八重歯を覗かせて、笑いながらふんぞり返る……彼女こそ、ちまたで噂の「クイズ姫」だ。

 多賀島たがしま紗幸さゆき。13歳。

 大人顔負けの知識量で、「頭に図書館入ってんのかーい」と謳われるスーパー美少女(自称)。

 この物語は、天才美少女、クイズ姫の紗幸が、何千年も人類を悩ます超難問……恋ってやつに挑む、クイズストーリーである。


 ※ ※ ※


「ふぇひひ。伸びてる伸びてる。今週もわたしの動画、大人気だし」


 自室で、配信してる動画「クイズ姫のお部屋」の再生回数をチェックする紗幸。

 口元がにやけっぱなし。

 ピンクのカーテンに、いっぱいのぬいぐるみと、少女趣味の強いお部屋だけど、大きな本棚にいっぱいの百科事典やら図鑑やらが、存在感有り過ぎる。紗幸にとっては、仕事道具。


「ぬぁ!? でも1位じゃないし! おのれピンク髪、またこいつかぁー!」


 ゲーム実況や「歌ってみた」で人気の、同年代のライバルに、今週も再生回数で負けて、歯をギリギリさせる。

 最近は双子の歌い手ユニット「夜来香」にも、じわじわ追い付かれてきて、焦る。


 紗幸の動画「クイズ姫のお部屋」は、毎週テーマを決めて、視聴者からSNS経由でクイズを募集。それを天下無双の知識量で千切っては投げ、千切っては投げしていく番組だ。

 「正解して調子乗ってるクイズ姫可愛い」「たまに分からなくて泣きそうになるクイズ姫可愛い」と、幅広い層に大人気!……だけど、人気ランキング1位は、獲ったことが無い。


「ふふん、いいもんねー。今度の4月14日は、わたし様の誕生日。記念配信を世界中の下僕しもべが見て……1位は約束されてるのだぁ!」


 高笑いを上げていると、下の階のママに怒られた。


「こら、紗幸。明日から新学期で、新しい学校でしょう。準備はしたの?」


「もー、ママうるさーい。この前、配信にママの声入ったの、怒ってるんだからね」


 声を返して、紗幸は、ハンガーにかけてある、真新しい制服に目を向ける。

 星花せいか女子学園、中等部の制服。去年、アイドルの美滝みたき百合葉を特待生で招いたりと、芸能活動へのバックアップが手厚い女子校。

 中学2年生になる紗幸も、明日から星花に転校だ。


「さて、と。お誕生日配信のクイズのテーマは、何にしようかな。やっぱ、わたしの得意ジャンルで、全問正解したいよね」


 スマホのSNSにメッセージ打ち込みながら、紗幸は考える。

 クイズ姫、多賀島紗幸の武器は、何と言っても知識量。暗記問題なら、最高学府の大学生たちにだって、いいえ世界中の誰にも、負けるつもりは無い。


「よし……ここは1番の得意ジャンルで……テーマは、『歴史』っと!」


 ぽちっと画面を突いて、送信。

 ……これが、運命の始まりだった。


 ※ ※ ※


「はーい。今日の授業は、待ちに待った幕末♪ 幕末ですよー♪」


 生徒の誰よりテンション高い、美人教師。

 愛瀬まなせめぐみ、27歳。星花女子学園の、歴史の先生だ。

 ふわふわロングのブラウンの髪に、あどけなささえ感じる顔立ち。

 その童顔が、172cmの高めの身長と、Hカップの豊かなお胸と不思議なアンバランスさを醸し出して、とにかく人目を引く、美人のおねーさん、だけど……。


「じゃあ今日の授業は、先生の推し、新撰組について1時間! 語り倒しますねー♪ まずは、はい、副長の土方ひじかた歳三としぞう!」


 にっこにこしながら、大きくプリントアウトしてきた写真を、皆に見せる。


「イケメンですねー。顔がいい! 後は……とにかく顔がいい!」


 歴史の授業なのに、ペリーにも黒船来航にもろくに触れず、ひたすら土方歳三の生い立ちから五稜郭での最期、趣味が俳句だとか、モテすぎて自慢の手紙を故郷に送ったとか、そんなエピソードをたっぷり語る、めぐみん先生。


「それじゃ、今日のおさらいね。りぴーと・あふたー・みー! 『土方歳三は、顔がいい』!!」


「土方歳三は、顔がいい……」


 死んだ目で復唱する生徒たち。誰の顏にも、「私たちは、何をさせられてるんだ……?」という困惑の色が有り有りだ。

 これでも、めぐみん先生の授業は、星花でも屈指の面白さと、おおむね好評……ただし、お受験の役にはまったく立たないという、致命的弱点に目をつぶればだけど!


 いい汗かいた、と満足げな笑顔の先生、チャイムの音を聞いて、


「あっ、もう時間!? まだまだ語り足りないのに! 仕方ありませんね、次回は内容を圧縮して……」


 瞳をキラキラさせて、にっこり。


「今度は沖田さんと山南さんの2人分、語り尽くしますね♪ 皆、予習しておいてね。おすすめの教材はゲーム『白桜鬼』よ♪」


「先生、仕事してー!?」


 ※ ※ ※


「み・お・にゃ! み・お・にゃ! にゃー!!」


 教員寮の、めぐみのお部屋。

 ツインテールのアイドルが歌い踊るライブ動画を視聴しながら、ペンライト振り回す女教師、27歳。


「はぁ、ツインテールのロリっ娘って、何でこんな尊いのかしら。これはもう、国際条約で保護するべきでは?」


 部屋にいっぱい貼った、女の子……アイドルのポスターに頬擦りしながら、うっとりする、めぐみん先生。

 部屋は、アイドルグッズの他、ゲームにアニメの円盤に、美少女フィギュアまで飾ってある、かなり濃ゆいオタク部屋だ。


「あっ、ツインテールと言えば!」


 ルンルン気分で鼻歌なんか歌いつつ、スマホを操作。

 SNSの画面を開く。


「クイズ姫ちゃん♡ この子も、今度から星花うちの生徒なのよね。ああっ、お近づきになりたい―♪」


 愛瀬めぐみは、小中学生の女の子が、大好きなのである。

 クイズ姫、多賀島紗幸の呟きを追っていると、


「お誕生日回のクイズ、テーマは歴史!? 『合宿で特訓でもするか! ふぇはははは!』だって!」


 ああ、教えてあげたい。手取り足取り腰取り、クイズ姫ちゃんに歴史の勉強、教えてあげたい! めぐみん先生の妄想はノンストップ。


「きゃー♡ 『先生、歴史もいいけど……オトナのお勉強も、教えて欲しいな♡』なんて……。だめよそんなの私も経験無いしー♡」


 枕を抱いてベッドでごろんごろん転げ回っていると、スマホに着信が入る。

 学園の、先輩教師からだ。


「ひぃっ!? めぐみ、ダメな子でごめんなさいぃぃぃ!?」


 怒られる心当たりがあり過ぎて、条件反射で泣いちゃう。

 おそるおそる、電話に出てみると……。


「は、はい。はい? 多賀島さんって、あのクイズ姫の。その親御さんが……ええーっ!? やります! やらせてくださいっ!!」


 ヒマワリが咲くように、表情がぱぁっと明るくなった。


「大丈夫です! ちっちゃい子に、手は出しませんから―!!」


 ※ ※ ※


 そして。桜の花びら舞う、春の日。

 星花女子の制服に身を包んだ多賀島紗幸が、初登校で、校門を抜けると。


 にこにこ笑顔の、愛瀬まなせめぐみが、待ち構えていた。

 正直に言えば。その時紗幸は、つい見惚れてしまった。

 ふわふわ柔らかなブラウンの髪が、春風に揺れて。長い睫毛まつげの下、夢見る乙女のように曇り無き眼差しを向けてくる……優しい笑顔の女性ひと

 ああ、遠い故郷で浜風に揺れる向日葵ひまわり畑のような。眩しくも、けして突き刺すことの無い、暖かな光みたいで。


(綺麗……)


 紗幸が思わず息を飲むと、


「初めまして。貴女が、多賀島紗幸ちゃんね」


 陽だまりを揺らして、歩み寄ってくる、その人は。ぎゅっと、手を握って来て。


「突然だけど。私と貴女は、同棲することになりました♡」


「……はい?」


「ふふ、私、この学校の歴史教師なの。紗幸ちゃん、お誕生日配信まで合宿するかって、言ってたでしょう。それで、学園に慣れるのと併せて、何日か私の所で預かったらどうかって」


 親と学園で、何か話し合っていたらしい。紗幸の明敏な頭脳は、瞬時に事情を把握するけれど。

 この人は、何かがやばい。紗幸の脳内にロリコン警報が発令!


「ふ、ふふふ。幼女、お持ち帰りぃー♡ さあ紗幸ちゃん! 一緒にご飯食べたり、お風呂入ったりしましょうねー♡」


 がっと抱きかかえられる!


「は、放せぇぇぇ!? このロリコン! 変態ー!?」

 

 ……恋のクイズの、はじまり、はじまり。


【後書き1】クイズの正解


第1問・正解・タラバガニ。生物学上はカニでなくヤドカリの仲間に分類されている。


第2問・正解・味覚。ナマズの仲間は、味蕾みらいと呼ばれる、味を感知する細胞が、対表全体に存在する。


第3問・正解・共通点は、「性転換を行う」生物であること。魚類には一匹の個体が状況に応じてオスからメスに、メスからオスに変わるものが、複数存在する。


【後書き2】星花女子辞典


・私立星花女子学園(学校名)

 S県空の宮市に位置する、中高一貫の女子校。創立71年の伝統ある学校だが、数年前から複合企業「天寿」の経営となり、様々な改革が行われた。

 結果、古いものと新しいものが混在する、カオスな校風に。

 校訓は「純粋な心と大胆な行動」。校章は六芒星に百合の花をあしらったデザイン。


・ピンク髪(あだ名)

 紗幸が一方的にライバル視している、動画配信者、津辺つべ侑卯菜ゆうなのこと。奇遇にも、紗幸と時を同じくして星花の生徒に。

(M・A・J・O様作「こじらせ☆しすたーこんぷれっくす!」(カクヨム)に初登場)


・夜来香(ユニット名)

 これまた紗幸がライバル視している、動画配信者。長泉ながいずみ夜来よると長泉コウの双子ユニットで、web上で歌を披露している。


・美滝百合葉(人名)

 昨年、星花女子の高等部に入学した、現役アイドル。現在は高等部2年2組。

(第7期作品「∞ガールズ!」主人公 「小説家になろう」にて完結済)


・土方歳三(歴史上の人名)

 1835~1869年。幕末の京都で名を馳せた警察組織、新撰組の副長。徳川幕府に殉じたラスト・サムライとして、高い人気を誇る。


 




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