向日葵を探す

角砂糖

向日葵を探す

そして世界は滅びた。いわゆる地球の異常気象の所為だ。しかし、しぶとく生き残った人間達は地球上のあっちこっちにコロニーを作ってなんとか生活している。

その内の一つに俺は生まれた。

「ヨルグ!おーいヨルグ!」

俺が住むコロニーは簡単に言うとでかい要塞。それをもっとでかい透明なドームで覆って外の世界から生き残りの人間達を守っている。なぜかって言うと、とにもかくにも異常気象だからだ。定期的に大嵐とか竜巻とかなにやらが来ては、全て吹っ飛ばしてしまう。人工物も自然物も平等にぜーんぶ。だから外の景色は酷い有様だ。天気が悪すぎて何も見えないか、カンカン照りで全てが干上がった砂漠しかない。世界が滅びる前は外で暮らしていたとかいう話が信じられないくらいだ。ドームさまさまだよ。ちなみに他にも同じようなコロニーが外にはあって、そんでお偉いさん同士で連絡も取り合ってるそうだ。

住む場所は割り振られたりはしてないので、てきとーに空いてる部屋に住んだり、てきとーに空いてる場所に小屋を建てたり、てきとーな空間に寝っ転がったりしている。まぁてきとーとは言うけど、残念ながら暗黙の階級ってのがあるっちゃある。金を持ってる奴はコロニーの中心に、俺たちみたいなのは外側に住んでる。けどドームが割れるわけでもなし。外の砂嵐と砂漠の景色が見えるしでいい事づくめだ。それに先人達が色んな機械と一緒に避難してくれたおかげで、コロニー内にはちゃんと電気が通ってる。不自由なとこも多いけど。

そんなコロニーの端っこを俺は走っていた。汗が額に薄らとにじんで、心臓がバクバク鳴ってる。冷房が効いているとはいえ、外の気温が高いからか、省エネだからか、俺が走ってるからかとにかく暑い。

「いたなヨルグ!」

ノックもなしに自動ドアが開き切るのも待たず部屋に突撃。いつもならドアに衝突して壊して妹に怒られる流れだけど、しかし!今日はぶつからなかった。幸先がいいぞ。

「聞いてくれヨルグ!妹が!マルカが入院できることになった!」

用があるのはそこに住んでいる自称エンジニアの幼馴染、ヨルグだ。コロニーは外側に行くにつれて電気が通ってない場所が多い。けどここらはヨルグが機械ばっかいじってるおかげで他の端っこに比べしっかり電気が通ってる。

「そんなん嘘だよカイリ。僕達みたいな下級層のクズが病院なんて入れる訳ないでしょ。実験にでも使われるんじゃない?」

機械に夢中なのか顔も上げずにヨルグが答える。相も変わらず悲観的な事しか考えられない性格だ。

「物騒な事言うなよぉ。」

ぜぇはぁと膝に手を着いて息を整えながらなんとか返事をする。

俺の妹は病気だ。このコロニー内で流行っている病気で、症状は一つ。『寒さ』だ。凍えるような寒さに患者はしろくじちゅーさいなまれる。しかもお偉いさんが言うには他のコロニーにはない病気らしい。ヨルグ曰くこのコロニーができてからずっとつきまとってる問題だそうだ。けれど俺達みたいな入院できない下級層の奴らは、ただただ患者を暖め続けるしかない。きっと入院できるような中心の奴らは、もっとまともな手当を受けられるんだろうなぁ。まぁマルカはヨルグがあれこれ作ってくれるお陰でなんとか暖を取れている。今はまだ、だけど。残念ながら症状は悪化していくばっかりでどうにかしないといけないのは確かだ。

「もちろんタダじゃないさ。条件付きの入院だよ。」

えへんと得意げに胸を張るが、すぐにつめたーい答えが返ってくる。

「何?お前が人体実験されるの?」

「物騒な事言うなよぉ。」

俺の話に興味があるのかないのか、謎の機械をいじりながらてきとーな相づちを打たれるのはいつものことだ。そして会話と機械いじりを同時にこなすなんてすごいなぁと毎度感心する。俺だったら二つのことを同時にするなんて絶対できない。

「条件はなんと外に調査に行くことだ!」

俺がバーンと伝えるとやっとヨルグの奴は顔を上げてこっちを見た。その表情は驚きを隠せないでいる。そして小さくため息をつくと、休憩するのかポケットから煙草を1本取り出し火をつけて咥えた。俺もちょーだいとばかりに手を差し出すと、ほらよと1本くれる。2人でしばらく煙草を堪能してから、ヨルグが煙を長く長く吐いてため息をつくと、やっとこさ喋り始めた。

「とうとうこんな日が来ると思ってたよ。」

「何が?」

そう問い返すと、やれやれと大きく首を横に降った。

「あんた馬鹿だからいつか誰かに騙されて酷い目に遭うってさ。」

「なにおう。」

再び煙草を大きく吸ったと思うと、もう一度ため息とともに煙を吐き出したヨルグは、心底呆れているらしい。知っているさ、俺はバカなんだろう。けれど妹の為、世間の為だ。

ここには一応仕事がある。医者とか、科学者とか、先生とか。ヨルグみたいに趣味でよく分かんないことをしてる奴もいる。その中で1番嫌がられていて、1番稼げるのが外に出稼ぎに行くことだ。外は砂と砂と砂しかないけど、よくよく探すと色んな物が落ちてるらしい。そんで外の物はすっごく貴重だから、それぞれの職業の奴らに高く売れる。例えば岩を見つけたら鉱物学者に、生き物を見つけたら動物学者に、という感じ。けどとにかく危険すぎるし、コロニー内でなんとかじきゅーじそくできてるしでこの仕事をしてる人は少ない。が、たくさん儲けられるからいるっちゃいる。帰って来ない奴だってたくさんいる。嘘かホントか他のコロニーから来たって奴もいる。

「そもそもそんな話聞いたことないっての。入院させる代わりになんでコックを外に放り出すの。」

「フッフッフッ。よくぞ聞いてくれた。とうとう俺が世間の役に立つ瞬間だよ。」

ヨルグが「コックだって人の役に立ってるっての」と独り言の様に呟き、また機械を弄り始めた。煙草を口に咥えたまんまだけど危なくないのかなぁ。

「よくわかんないけどお偉いさんが言うには、あの凍える病気に効く薬草がなんやかんやしたら見つかったんだって!地図ももらったよ。空から見た地図だって。」

ヨルグに差し出すと目だけこちらに向けたがすぐに戻す。

「・・・そんでいつ出発すんの?」

そう言うと、咥えていた煙草をごちゃごちゃとコードやドライバーやらが置いてある机の上にある吸い殻だらけの灰皿に突っ込んだ。

「これから妹を入院させて、その後すぐ出発する。」

「馬鹿なの?」

「なにおう。」

こういうのは早い方がいい。そんで病気を1日でも早く治したいという考えがなぜわからない。今すぐにでも飛び出して行きそうな俺を手で制して、ヨルグは冷静に話し出す。今弄ってる機械を指さしながら。

「まぁ待てって。今作ってるのが丁度使えそうだからついでに持ってってくれよ。2、3日はかかるからそれまでに挨拶周りと食料、水、寝具、コンパス、銃、バズーカ、ナイフ等等等全部集めてこい。ひとつ残らずな。乗り物は俺が用意してやる。乗る練習をしろ。・・・本当は準備に1週間はかけてほしいけど。」

必要な物をメモしてくれながらこちらをチラリと見るヨルグ。もちろん1週間も待ってられるか!俺は今すぐにでも飛び出して行きたい!けどヨルグがそう言うのならしょうがない。俺はメモを受け取ると、ごちゃごちゃの灰皿に煙草を突っ込み妹の元へ走った。


*


1週間後、ヨルグがお見送りに来てくれた。手にはこの前弄っていた機械を持っている。あの時はもっとでかい機械だった気がしたけど、今は手から少しはみ出すくらいの大きさの箱だ。

「マルカちゃんはなんて?」

「お兄ちゃんはバカだって。」

それを聞くと、小さくクスクス笑い「そうだと思った。」と呟くヨルグ。けれど幼い妹が凍えながら言うもんだから、俺はやっぱりバカでいい。

「行かないでとかは言われなかったの?」

最後の調整なのか、突然膝をついて用意してくれた乗り物のエンジン部分の蓋をパカッと開けたヨルグ。そんで細い棒を入れたり、コードを出して手に持っている小さな箱に繋いだりとわけわからんことをはじめる。乗り物は『バイク』と言うらしい。乗る練習もしたから広いところで乗り回すのが楽しみだ。

「止めても無駄だから、さっさと行ってさっさと帰ってこいだとさ。」

物分りの良い妹である。しかし聞いてるのか聞いてないのか、「ふーん」とてきとーな相づちをうつと、突然手に持っていた箱のコードを抜くと俺にぽいと投げてきた。

「ほら、これ。」

危うく落としかけながら受け取る。見た目は携帯電話みたいだけれど、わざわざヨルグが渡すものだ。きっと何か役立つものなんだろう。

「あんがと。これ何?」

「携帯電話。」

なんでだよ。もう持ってるよ。という表情を浮かべるとそれもそうかとヨルグが説明を始めた。

「外だと今持ってるやつ繋がらなくなるから、それ持ってって。繋がるかどうか、どこまで繋がるか調べたいから。」

「俺で試作品を試すなよぉ。」

手入れが終わったのか、蓋を閉じて「これでよし」とバイクを優しく撫でた。膝をはたきながら立ち上がると、俺に煙草と一緒に何か紙切れを差し出す。「あんがとー。」と受け取って開いてみるとあれやこれやと事細かに旅の注意事項や携帯の使い方、バイクの充電方法、修理方法などが書いてある。なんだかんだ言って心配してくれる幼なじみをしみじみとありがたく思う。そして一緒にもらった煙草に火をつけて咥えると、苦味が口の中いっぱいに広がった。うまい。ヨルグも自分の煙草に火をつけながら「そういえば」と話し出す。

「なんでカイリが選ばれたの。外に出稼ぎに出てる奴なんて他にもいっぱいいるじゃん。」

そう聞かれ、煙草を咥えながらも腕を組みどうだと胸を張る。

「それはなぁ、色んな奴に声をかけて行くって言ったのが俺だけだったらしいよ。皆そんな遠い所になんか行きたくない!って断られたんだって。」

俺がそう言った瞬間、ヨルグが口の中で小さく笑う。煙もそれに合わせて緩く揺らいだ。

「やっぱりお前馬鹿だな。」

「なにおぅ。」

咥えていた煙草がいつの間にか短くなっている事に気が付き、さてとと携帯灰皿にギュッと押し付けた。あまりノロノロもしていられない。じゃ行ってくるよとバイクに跨りエンジンをかけた。オンボロとはいえ中々いい感じだ。

「じゃあ俺がいない間色々と気をつけろよ。ご飯もちゃんと食べること。特にマルカにはちゃんとした物を食べさせてね。温かいものとか、俺はもう作ってあげられないけど。連絡はちゃんとするからすぐに」

「カイリ。」

あれやこれやと言いたいことが口からたくさん出てくる。よく見るとかっこ悪く手や足が震えていた。誰だって死ぬのは怖い。

「行きたくないならやめた方がいい。」

真っ直ぐに俺を見つめる瞳は本気で俺を心配してくれている。それでも、ここでやめる訳にはいかない。

「マルカを頼んだよ。」

そう伝えると、無言で頷くヨルグ。

あぁ良かった。これなら安心だ。

「じゃあな。」「おう。」

そして俺は旅に出た。


*


それからあっという間に1年が経った。

すんでのところで砂嵐に巻き込まれたり、巨大生物に襲われ戦ったり、別のコロニーに厄介になったり、そのコロニーが別のコロニーから戦争を仕掛けられたり、お陰でそこの英雄になったり、恐ろしの地下帝国に流れ着いたり、世界の神秘と秘密に触れたり。まぁ色々あった。   

ヨルグとマルカとは不定期に連絡を取り合ってはいた。けれど遠くになるにつれて携帯が繋がりにくくなり、最後の連絡からすでに4、5ヶ月くらい経っている。

マルカはすでに入院先の施設じゃ間に合わない程に震えている、顔面も蒼白で、唇も紫色に染まっていると最後に言われて、それっきりだ。そして今日、なんとか連絡を取れそうな場所を見つけた。バイクを停め、それに繋いでいた充電満タンな携帯を手に取る。落ち着いているつもりでも、内心焦っているのか何度も間違えながら操作し、電話の画面を開いた。

ここで深呼吸を1つ。落ち着け、落ち着け俺。鳥みたいなでっかい空飛ぶ機械から落ちてる時に電話がかかってきた時も、落ち着いて対処できたんだから。あの時は2人ともびっくりしてたなぁ。俺もびっくりしたもん。

意を決してボタンを押した。永遠とも思えるぐらいの長い長い長い呼び出し音。けれどいつまで経っても誰も出ない。空っぽの呼び出し音が虚しく響くだけ。

残念ながら出なさそうだと深いため息をついて諦めようと思った瞬間、さっきまで響いていた音が途切れ、ひさしぶりの落ち着いた友人の声が小さな箱から聞こえてきた。

『・・・もしもし?』

「やっほー。久しぶり。」

つい感極まって泣きそうになったがそこは堪える。人とおしゃべりしたのはいつぶりだっけ?確か謎多き砂漠に住む砂漠の民と話して以来だから、2ヶ月位かな。

『てっきり死んだかと思って、諦めてたとこだよ。』

相変わらずの口ぶりに変わってないなぁと小さなため息をこぼす。電波が悪いのかノイズが酷い。砂嵐に近い音が後ろからザーザーと聞こえる。

『・・・悪い知らせと、もっと悪い知らせ。どっちから聞きたい?』

その言葉に、全身が一気に凍ってしまったかのような感覚がした。本当に幼なじみははっきり言ってくれる。そこが彼の良いところだ。

マルカの事は、なんとなく覚悟していた。寒い寒いと言ってカタカタ震えていた幼い妹が脳裏に過ぎる。俺は間に合わなかったんだ。

「どっちでもいいよ。」

声が震えるのを堪えた。どっちでもなんて良くない。マルカのことを1番に聞きたいし聞きたくない。

『マルカちゃんなんだけど』

覚悟はしていたけれど、耳を塞ぎたくなる衝動が混み上がってくる。固く目を瞑り彼の次の言葉を待った。

『完治したよ。』

一瞬何言ってんのかわからなかった。

「え?なんて?」

ノイズの所為で聞き間違えたのかと思ったけれど直ぐに相手の声が変わりそれが聞き間違いではないことがわかった。

『お兄ちゃんのばか!なんででんわしてくれなかったの!ばか!!』

頭がこんがらがって何が何やらわからず素っ頓狂な声しか出てこない。

「マルカ?え?マルカなの?ほんとに本物?幽霊?」

するとマルカの怒った声がまた響く。

『しつれいしちゃうわ!お兄ちゃんの方こそゆうれいなんじゃないの?もう知らない!』

どとーの勢いにもしかして電話切られちゃったのかと心配になったが幼なじみの『もしもし?』という声にほっと胸をなで下ろす。いやなで下ろしている場合じゃない。

「おいヨルグ!お前が変な言い方するからこちとら勘違いしちまったじゃねぇか!なぁにが悪い知らせともっと悪い知らせだ!」

携帯に怒鳴りつけるがサラッとした返事が返ってくる。

『だってあんたが出てった意味がなくなるから悪い知らせでしょ。』

悪びれもなくそう言いのけた幼なじみに、今度帰ったら殴ってやろうと決意を固くした。

「じゃあもっと悪い知らせってなによ。」

とりあえず気を落ち着けて訊ねるとまたもや同じ調子でサラッと『コロニーで革命が起こった。』と答えた。

「ごめん。なんて?」

またもやノイズの所為で聞き間違えたのか、俺の耳がとうとうおかしくなったのかと思ったが、やっぱりそうじゃないらしい。

『かんたんに言うと、お兄ちゃんはもう帰って来れないってことよ。』

マルカはどうやら簡単の意味がまだわかっていないらしい。しょうがないよなぁ。まだ小さいからなぁ。マルカが元気になったのが嬉しくてついついにやけてしまう。

「もうちょい詳しく教えてほしいなぁ。」

と懇願するとマルカの『しょうがないなぁ。』という愛くるしい返事が聞こえる。しかし直ぐにヨルグの低い声に変わった。

『凍える病は外に出てた奴が持って帰ってくる、って誰かが言い出した。それがあっという間に広がってさ、気がついたら上のお偉いさん方を倒せってことになってた。』

何やら俺がいない間に大変なことになっている。2人が無事だったことにただただ感謝だ。

「でも俺かかってないよ?この1年元気ピンピン。」

外に出て病気にかかったらどうしようと思っていたけれど、以外にも大丈夫だった。それに空に住む失われた文明の民族達から色んな薬草をもらってからは特に心配はしてない。

『もちろん、そんな話嘘だからだよ。そもそもあのコロニーでしか流行ってないのに、なんでそんな発想になるのかね。けど皆信じちゃってさ。その所為で外に行くのは禁止。外に出るのは禁忌。そんで革命が起こって政権が乗っ取られた。多分病気に対してなんにも処置しないどころか、金がある奴だけ良い思いをしてるのが皆相当不満だったらしい。折角あんたが外に出て薬草を探しに行ったのにね。』

なるほどだから帰れないってことか。なら俺は一体いつになったら2人に、妹に会えるのだろう。

『そしたら今度は機械に頼るのなんかやめて自分達だけの力で生活しましょうだとさ。もうめちゃくちゃだよ。機械なしで生きていける訳が無い。あのコロニーはもうダメだ。そう思って大量の機械とマルカちゃんと一緒にコロニーを出たって訳。あそこにいたって機械壊されるだけたからさ。』

聞き捨てならない言葉に耳を疑った。ちょっと待て、さっきから聞こえるノイズの音が気になっていたけれど、まさか。

「・・・砂嵐?待て待て待て2人とも今どこにいんの!?」

俺の動揺とは裏腹に2人は声をそろえて『お外。』と言いのけた。

「お前病気の妹外に連れ出したのかよ!お兄ちゃんそろそろ怒るよ!」

頭を抱えてうずくまりたくなったけどなんとかこらえる。なんてこった。次にあったら殴るだけじゃすまないぞヨルグ。

『置いてく訳にはいかないでしょ。結果として治ったんだしそう怒るなって。』

そう言われてしまうと確かにその通りだ。置いてってたらそれはそれで怒る。しかしそうなると疑問が1つ。

「じゃあマルカの病気はどうやって治ったの?」

『外に出て1週間くらいしたら治った。』

空いた口がふさがらないとはこのことだ。もしかして顎が外れたんじゃなかろうかと思うぐらいふさがらない。

『憶測なんだけど、多分あの病気は風土病だったんだと思う。コロニーを出て自給自足し始めてから治ったからさ。それか、そこらに生えてる植物か生き物かに薬になるような成分が入ってたかだな。あんたが教えてくれたレシピのお陰で美味しく食えたし。コロニーの外に出るなんて思いも寄らなかったから聞いといて良かった。』

さすが俺。離れてても役に立つだろ。と言いたい所だったけど俺の返事も聞かずにヨルグが話しを続ける。

『ま、そういうこと。とりあえず待っててよ。2人でなんとか追いつくから。』

すぐにかわいいかわいいマルカの声に変わる。

『のたれじにしないようにね。』

しかしその言葉はまるでどこぞの幼なじみとそっくりだった。

「何教えてんだよヨルグ!お兄ちゃんマルカにそんな言葉教えた覚えないよ!」

そう悲痛の叫びをあげると『じゃ』と言って電話が切れた。なんてことだ。マルカがヨルグみたいになってしまう。今度こそ頭を抱えてしゃがみこむ。けれど考えたってしょうがないし、苦手だ。

煙草を1本取り出し、火をつけて咥える。それから立ち上がって、もう一度バイクに寄りかかった。

「それにしてもいい天気だなぁ。」

独りごちてから、煙を大きく吸って吐いた。煙が青い空に向かってゆらゆらと伸びていく。

「さーて、待ちますか。」

大きな伸びを1つして、煙草を咥えたまんま、俺は草原に寝転び、背の高い黄色い植物を見上げた。

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