第14話 ヒロイン4
私は平凡な女だった。
特に得意なこともなく、特徴的な見た目をしているというわけでもない平凡な女だった。
そんな私はいつも周りに流されていて、流行を追いかけ、クラスメイトと青春を楽しんでいるふりをしていた。
何が楽しいのか分からずに、それでも仲間外れになるのは嫌で自ら平凡になるようにしていた。
そんな私の楽しみは幼馴染みの女の子みたいな男の子を陰から見守ることだった。
女の子みたいだから、女子達はその男の子を時々女のグループに入れて楽しんだ。
だから話したことも触れたこともある。
でも、男の子は女の子みたいなのに全く浮くこともなく、女子とも男子とも万遍なく仲が良かった。
特定の誰かと仲が良いわけではないのだが、決して仲間外れにされることはない、そんな男の子の絶妙なバランスにいつも羨望の眼差しを送っていた。
だからだろうか。
いつからか、男の子に恋をした。
女の子みたいな男の子を好きだなんて浮いてしまうことは言えず、心の奥底に閉じ込めながらも、いつも見ていた。
男の子が行く高校、男の子が行く大学に私も進学し、私はこれからも男の子と生きていくと信じてやまなかった。
なのに気付いたら男の子はロボ女を見つめていた。
神童だったとか天才とか最もノーベル賞に近い女とか、そんなの知らない。
あんな無表情で冷血で無愛想なロボットみたいな女をどうして見るのか意味が分からなかった。
その乙女ゲームに手を出したのは、美少女にしか見えない王子様が攻略できると小耳に挟んだからだ。
しかも、ライバルはあのロボットみたいな女と同じで天才令嬢。
これはもう私の為にあるような乙女ゲームだと思った。
私は夢中で乙女ゲームをした。
わざわざ他のルートまで全部コンプリートしたし、裏設定まで調べまくった。
最高に幸せだった。
だって、私を選んでくれるのだ。あの、ロボットみたいな女ではなく。
だけど、現実は厳しかった。
ゲームの中では幸せだからこそ、思い通りにいかない現実にイラついた。
そして気付いた。
そうだ、この悪役令嬢と同じようにあのロボットみたいな女も排してしまえばいいんだ。
そうしたら
そう思ったら、それが幸せの道にしか見えなかった。
「なにを……している……」
「ああ、フレたん……何って、
「ロボ女……? っ、教授!? 教授っ!! しっかりして下さい、教授っ!!」
「大丈夫だよ。しっかり殺したから」
「殺……死ん、でる…………嘘、だろ…………なん、で……」
「フレたんがいけないんだよ。そんなロボ女ばっかり見てるから。だからフレたんの為にロボ女を殺してあげたの。もう邪魔者はいないよ。だから私を選んでいいんだよ、フレたん」
そう、これでようやく一緒になれるんだよ。
「てめぇ、誰だよ」
は?
誰……って?
「俺はてめぇなんか知らねぇよ。勝手にゲームの世界に生きていろ。ゲームの世界ならてめぇを選んでくれる奴もいるだろうよ。現実では絶対に誰もお前を選ばないだろうけどな」
冷たい、冷たい瞳。
怒りに満ち、嫌悪に満ちた声。
ロボ女の亡骸に目を向けると、その瞳は私に向けていた瞳とは全く違って愛情に溢れていた。
そっと触れ、優しく撫でるその手にも愛情が籠っており、怒りが湧いてくる。
「どうしてっ、何でそんな女をっ」
「てめぇにゃ関係ねぇよ! 関係ない、はずなのに……俺のせい、なんだよな……ごめん、教授。怖かったよな、痛かったよな。大丈夫。俺もすぐにそっちに行くから。これで許してもらえるとは思わないけど、次はちゃんと守るから。愛してるよ」
「!!!!!!やっ……」
視界が、赤く染まった。
ロボ女の血には何も思わなかったのに、男の子から流れる血が赤く赤く視界を染めた。
その中で、男の子は最期までロボ女の亡骸を優しく見つめていた。
あの後のことはよく覚えていない。
だけど、私がロボ女に負けたことだけは分かっている。
だから、今度こそは負けないようにしたはずだった。
なのに、どうして私はまたフレたんとロボ女が寄り添っているのを遠くから見せられているんだろう。
どうして、フレたんの隣に私は居ないんだろう。
どうして、フレたんは私ではなくロボ女を愛おしそうに見つめているのだろう。
分からない。
分からない。
私はただ、フレたんが好きなだけだったのに、どうして……
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