第6話 美少女王子3
それにしてもファニーを見ていると、前世の淡い恋を思い出す。
そもそもファニーにハマったのも、あの人に似ていたからだ。
あの人は高嶺の花だった。
孤峰の存在だった。
接点なんてなかった。
だけど、昔神童だと騒がれた天才だということは知っていた。
だから俺は有名人に心酔するただの痛い人だったと言えるだろう。
それでも、あの人の一人で立ち、そして成果を出している姿がとても眩しかったのだ。
俺は前世でも女っぽかった。
虐めを受けるということは幸いにもなかったものの、とてもじゃないけど男として自信は持てずにいた。
そうだ、最初はそれであのバカ王子に共感したんだ。
ヒロインに惹かれていくのが信じられなくて忘れていた。
結局、俺は勇気を出すことが出来なかった。
あの人に声を掛けることさえ出来なかった。
もし、好きだと言えていたら、何か変わっていただろうか。
「報告します。昨日魔道具が反応致しました」
ある日、側近――いや、攻略対象者と言おう――の一人がそう告げてきた。
入学から半年経っていた。
「全員、魔道具は所持しているか?」
即座に確認する。
「当然ですっ」
真っ先に返事をしたのは皇室魔導士を目指しているパスカル・アモン。
お姉様方が喜ぶショタっ子にしか見えない元気っ子だ。中身は真っ黒なので俺とは気が合う。バッドエンドルートだと血生臭いことになるので要注意だ。
「おう、勿論ですぜ」
怪しい敬語を使うのは脳まで筋肉尽くしなモルガン・デモス。
暑苦しい熱血タイプで、剣を所持しているものの得意な得物は槍という細マッチョだ。明るいように見えて幼い頃に親友を亡くしていることが心の傷となっているらしい。が、脳まで筋肉尽くしなので変な拗らせ方をしている。攻略するのに武力が必要という意味の分からない奴だ。
「常に身に着けております」
文官を目指している子爵家の四男のヨアン・バジュー。
という設定で実のところは影の一員でもある。表に出て俺の側近の振りをしているのは、俺の本当の味方が少なかった頃の名残だ。人前では軽薄な女好きを装っているが、むしろ頭が固いくらいに真面目だ。
そして魔道具が反応したと報告してきたティッキー・デュポン。
商売が成功したことにより爵位を賜ったとある商家の次男。
真面目な委員長タイプで、片目に着けられているモノクルが特徴的なやつだ。勿論見た目が真面目なだけで実はかなりの悪戯っ子だ。どこが本心か分かりづらいのがミステリアスで良いそう。
因みに俺は美少女なのに言動は王子らしく尊大なところもあるが基本は優しい王子様。女らしいことに悩んでいるが、それは本当に親しくならないと絶対に見せないくらいに徹底して理想の王子様を演じている心の強い人。実は剣も魔法も強いし、努力も怠らず、万人に優しいが優しいだけでなく政治力が優れている。
という設定だったのに、ファニーに対してだけは色眼鏡で見まくっていたバカ王子。
例えゲームでもアレが俺だとは思いたくもない。
「よし、ティッキー。犯人は割れているのか?」
「はい。アニエス・モルメク嬢です」
ヒロインか。
あの後、俺に対して接触してこなかったのに、こんなことをしでかすのか。
やはりあの時ゲームのセリフでなかったことで警戒心を呼び起こしたと見た方がいいのか?
どちらにしろ俺とファニーがラブラブな時点で直接的に来るとは思えないのだが。
「詳細は」
「先日少々手を貸したのですが、そのお礼にとクッキーを貰ったのです。そのクッキーに混入しているものが反応した理由のようです」
「薬物か」
「分かりません。アニエス・モルメク嬢は市井で暮らしていた期間が長く、クッキーを手作りしたらしいのですが、その際に一部の材料を森で集めたそうです。まだこれが何か等は調べられておりません」
「そうか」
さて、これが故意だったら手を下せるんだが、どうしたものかな。
「現物は所持しているか?」
「はい、ここに」
「よし、ヨアン、混入物を特定してくれ」
「はっ」
「モルガンはブツが分かり次第、その森に行って簡単に手に入るものか実際に調べてきてくれ。闇市への潜入となりそうだったら、別途作戦を練り直すから戻ってこい」
「おうっ」
「ティッキーはクッキーは良い。本人の経歴について調べてくれ。市井に居たならお前が適任だろう」
「承知しました」
「パスカルは今現在の本人について評判等を聞いてきてくれ。学園内だけで十分だ」
「了解ですっ」
ああ、これでようやく影を付ける理由が出来た。
後でヨアン経由で影を付けさせよう。
だがまずはファニーへのフォローだな。
「大丈夫かい? 俺の可愛いファニー。随分と動揺しているね」
今のところ、ファニーに前世の記憶が戻ったことを告げていない。
何でかと言われたら上手く言えないけど、あの人の幻影をファニーに見てしまっていることが躊躇する原因なのだと思う。
「……私も、捜査に加わってよろしいでしょうか」
「駄目」
ヒロインと関わりを持たせるなんて冗談じゃない。
万が一、ゲームの強制力とやらが働いたらどうするんだ。
「ですが……」
「万が一、俺やファニーへの攻撃が目的だったらどうするんだ。俺達は守られることも仕事だぞ」
「そう、ですね……申し訳ございません」
ヒロインが接触してきたことで動揺する気持ちは分かる。
でも俺がファニーをどれだけ愛しているかは告げてきたつもりだ。
「大丈夫。俺はファニーをいつだって愛しているよ。何があってもファニーの味方だから安心して俺の可愛い婚約者で居ておくれ」
「リック様……」
決して俺はあのバカ王子のようにはならない。
前世の俺にも言ってやりたい。
男として自信を持ちたければ、自分の全てを使って愛する人を守り抜けと。
与えられる恋をしているうちは男とは言えない。
自信も愛も夢も希望も全て俺が与えるべきものだ。
見ろ、この安心した笑みを。信頼した瞳を。
これを守り切ることが男としての使命というものだろう。
そうだ。
あの人の凛とした姿は好きだった。
でも、本当はこんな顔をして欲しかったんだ。
俺が幸せにしたかったんだ。
だから、今度こそは間違えない。
折角ここまで来れたんだ。
ゲームだか何だか知るものか。
俺とファニーはここに生きている。
決して誰にもこの幸せを奪わせたりしない。
愛して守り抜いてやる。
俺はファニーと生きていくんだ。
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