第5話 美少女王子2

 そう、ファニーは俺のものなんだ。

 前世の記憶があるかどうかなんて分からない。だけど、あのヒロインへの対策はしておいた方が良いだろう。

 万が一にもファニーと結婚出来ない芽など残しておきたくない。



「俺の可愛いファニー、作って欲しいものがあるんだけど、いいかな?」


 ファニーと婚約した後、ファニーは発明品を開発することで俺の手助けをしてくれるようになった。

 ファニーは発明を楽しんでいるから止める気はないけど、第三者から見れば俺がファニーを利用しているようにしか見えないことは自覚している。

 それでもファニーの凄さを知らしめたいし、俺が王になる為に必要な根回しにファニーの発明品は非常に有効だということも分かっている。

 だから、結局俺はファニーを利用している。


「何ですか?」

「魅了や洗脳と言った精神攻撃を感知できる魔道具が欲しいんだ」


 あのヒロインにそんな魔法が使えるとは思っていない。

 だけど、あのゲームには課金することで好感度上昇アイテムを使うことが出来た。

 俺はファニー目当てであのゲームをしていたから、ヒロインの好感度をあげる為のミニゲームなんて面倒くさくてこの好感度上昇アイテムを利用していたのだ。


 勿論、好感度上昇アイテムなんてゲームだったから効果があったのだろうし、あのアイテム自体に相手を無条件に魅了させるような特殊効能はないだろう。

 流石に裏設定までは調べなかったから、憶測だが。


 でも、この世界には魔法がある。

 勿論魔法と言ってもきちんと体系付けられたもので、科学に近い。想像や願いの力で不思議な力が働くみたいな超常的なものではない。

 しかし、精神に影響を及ぼす魔法が存在することも事実なのだ。


 当然、精神に影響が及ぶものは例え良い効果のものであっても非常に厳格に管理されている。

 基本的に精神に影響が及ぶものは禁忌魔法なのだ。

 だけど万が一がないとは言い切れない。


「感知、ですか? 防御や無効化などではなく」

「感知だけで良いよ。防御や無効化は出来ないだろう?」


 精神攻撃というのは、人為的に精神に悪い影響を与えるものだから攻撃と言われる。

 でも、精神に作用するよう働きかけているものは普段から存在している。自然界から無意識に人間は精神を始めとした人体に影響があるものを取り込んでいるのだ。

 精神攻撃を遮断するようなことをすると、自然界からも遮断されて人体に悪影響が出る。

 そして精神に及ぶ影響が悪いか良いかは人間が勝手に判断しているものだ。

 だから精神攻撃と呼ばれているもののみをどうこうすることは不可能と言うのが定説だ。


 勿論時間を掛ければ、もしかしたらどうにか出来るかもしれない。ファニーは天才だからね。

 でも、学園生活を送る際に着けさせたいのだからスピードが肝心なのだ。

 だから出来るか出来ないかの研究は頼まない。

 今は何か自分達の意思以外の力が働く可能性を除外しておきたいのだ。


「承知いたしました。すぐに取り掛かりますね」

「ああ、ありがとう。本当にファニーは賢くて可愛いね」


 ファニーの発明品のお陰で色んな所から支援金という名の対価を貰っている。

 とある領地をファニーの発明品で救った対価であったり、ファニーの発明品を量産化及び商品化する権利をあげる対価であったりと色々だ。


 だから、俺の個人資産はとても莫大なものとなっており、それがファニーの発明資金にもなっている。

 勿論色々交渉したりしたのは俺だけど、ファニーの発明品のお陰でもあるのだから、これは夫婦の資産だと常々言っている。

 俺が運用した方が良いからとファニーはあまり執着していないようだが。


 まあ、そんなわけで数日後には魔道具は完成していた。

 潤沢な資金とファニーの頭脳があればこんなものだ。



「というわけで、お前らも付けておけ。これは命令だ」


 側近達の分も作ってもらったのは、領地を救ったりした際に俺自身に忠誠を誓ってくれた奴らだからではない。

 前世の記憶が戻ったことで、こいつらが攻略対象者だと気づいたからだ。

 道理でファニーが微妙そうな顔をしていたわけだ。


 ヒロインとぶつかりそうになったあの出逢いイベントと言い、こいつらと言い、これはゲームの強制力なのだろうか。

 まあ、俺には効かないようだが。


 チラリと見るファニーはいつも通り無表情と言われる顔で本を読んでいた。

 うん、今日もファニーは可愛い。


「し、しかしこのような高価なものを付けるなど畏れ多いことです」

「殿下とステファニー嬢が付けていらっしゃるだけで良いのではないでしょうか」


 辞退を申し出る側近達を見て、最初にファニーに魔道具を贈った時のファニーも可愛かったなと思い出す。

 今では結界の魔道具だけでなく、毒を検知する魔道具や万が一の時に場所を感知する為の魔道具など色々付けさせているので、今回のように魔道具を追加しても何か言われることはない。


「お前達はファニーに近寄ることが多い。ファニーの安全の為にお前達が精神攻撃を受けない対策をすることは仕事の一環だ。肌身離さず付けていろ。再度言うが、これは命令だ」


 でもファニーと押し問答するのはそれはそれで楽しい。

 こんな野郎共と押し問答する趣味はないから、野郎共の意見など一蹴して強引に話を切り上げた。


 ヒロインのマナーについては既に頼んでいるし、これでしばらく様子見かな。

 そもそも学園生活なんて青春は可愛いファニーに捧げるべきなのだ。



「ファニーは今日も可愛いよね」

「……リック様、ここは学園です。もう少し自重なさって下さい」


 婚約してから、人目を憚ることなくファニーを可愛がりまくった。

 良く膝の上に乗せて腕の中に閉じ込めるし、手や髪だけでなく顔中に接吻しまくるし、可愛いが常にゲシュタルト崩壊しているくらいに可愛いと言いまくる。

 ファニーは恥ずかしがり屋なので、これでも一応人前では少し自重しているつもりだ。可愛いファニーを自慢はしたいが、誰かに分けてやるつもりなど全くないのだ。


 しかし俺がファニーを溺愛していることは有名だ。

 お陰で今ではもう何かを言ってくる人などいない。

 精々「今日も仲が良いですな」と挨拶のように述べてくるくらいだ。


 多分、俺の見た目が美少女だからだろう。

 見た目が野郎だったら、婚約者でもやりすぎだと止められていたはずだ。

 だが、美少女のお陰で仲の良い女同士にしか見えなくて、誰も注意をしないどころか、スルーするのだと思う。


 でも、ファニーは未だにこうして時々控えめに抗議してくる。

 勿論、嫌がっていないのは知っているからやっていることなんだけど。


「ファニーが可愛いのは事実なんだから仕方ない。むしろファニーの可愛さを世に知らしめることこそが俺の使命だと思わないか?」

「思いません」

「そうか。ファニーは俺一人に可愛がられればそれでいいもんな。それは申し訳ないことをした」

「っ」


 ここで口先だけでも否定の声を述べられないというのがファニーの可愛さを示している。

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