第4話 美少女王子1
12歳となっていた。
この国では12歳になると貴族は学園に通わなければならない。
そこで3年から5年通うことで、貴族として申し分がない教養を身につけていることを保証してもらう為だ。
俺の可愛い婚約者は俺と同年齢なので、一緒に入学することが出来る。
野郎共と狭い教室で過ごすなんて許せないから、一緒に入学できるのは本当に良かった。
せめて俺が傍に居て防波堤にならないとな。
と、学園に来るまでは思っていた。
しかし、学園の門を通り抜けてからか、どこか既視感のようなものを端々に感じた。
入学早々図書館を見学したいという可愛い子を図書館において、少しだけ散歩してみることにした。
そうしたら既視感の原因が分かるような気がしたのだ。
だから歩いていると、「に゛ゃああああ」と言う猫の不機嫌そうな鳴き声が聞こえてきた。
「待って、猫ちゃんっ!」
そしてすぐに女性の声が聞こえてきたかと思うと、茂みから猫と女性が飛び出すように出てきたので反射的にひょいっと避け、女性が転ばないように支えた。
女性に怪我されると色々と面倒なのだ。
「っ」
「大丈夫かい?」
衝突しそうなことが分かったからだろう。
ぎゅっと目を瞑っている女性をきちんと立たせ、少し離れて怪我無いことを一応確認する。
「あ……も、申し訳ございませんっ」
目を開け、勢いよく頭を下げる女生徒。
ああ、思い出した。
ここは、
そして、目の前のこの女生徒は所謂ヒロインか。
それを理解し、即座にいつも通りの笑みを浮かべた。
「構わないさ、素敵なご令嬢に触れることが出来て光栄だよ」
とゲームの俺なら言うのだろう。
だけど、俺にはファニーが居る。お世辞でもファニー以外に触れたことを喜ぶなんて言いたくない。ファニーが誤解したらどうするんだ!
「気を付けると良い。ここは身分を翳すことの出来ない学園ではあるが、同時に社会の縮図でもある。平民では謝れば許されることでも貴族社会では攻撃の元となる。マナーは自分の身を守る為に必要な武装だ。早々に身に着けることをおススメするよ、
アニエス・モルメク。
モルメク男爵家の私生児。一年前まで市井で暮らしていたが、モルメク家の後継ぎになるはずだった男児が病で死んだことにより、引き取られた人。
という設定のヒロイン。
「あ、え……わ、私のことをご存じなのですか?」
「私が誰か知らないのかな?」
「い、いえっ、お初にお目にかかります。アニエス・モルメクでございます、フレデリック第三王子殿下」
慌ててカーテシーをする彼女にはゲームの知識はあるのだろうか。
俺の可愛いファニーにはこれまでの言動を考えるとありそうだ。
なくても俺がわざわざファニー以外の女と接触する可能性は排除しておきたい。
「ふむ。やはりマナー講座をきちんと受けることをおススメするよ。必要なら私の方から話を通しておこう」
「あ、ありがとうございます、フレデリック殿下」
「ああ、では私は失礼する」
種は蒔いた。
もしこれで馴れ馴れしく接触してきたら黒だと判断しよう。
だがそんなことよりも、俺の可愛い婚約者に会いたいっ!
そう、前世の記憶などなくとも、あの可愛い子は可愛いのだっ!
前世の頃からお気に入りのキャラだったけど、実物はもっと可愛いっ!
記憶はなかったけど、可愛がりまくっていた俺は最高に趣味が良い!
「てことで、ファニー分が足りないんだ。可愛がらせておくれ」
図書館を楽しんでいたファニーには悪いと思ったけど、唐突にそれだけ言って帰りの馬車に乗せた。
出来る限り回り道をするよう命令してから、馬車の中でファニーを可愛がりまくる。
膝の上に乗せ、抱きしめながら頭を撫で、頬擦りし、顔中に接吻する。
真っ赤になるファニーに言葉でもどれだけファニーが可愛いかを教えてあげる。
そうして優に一時間以上たっぷりとファニー分を充電してから、屋敷に送り届けた。
ファニーを送ってから、先程思い出した前世の記憶をじっくりと思い返す。
前世を思い出したからと言って、今の人格に変化はない。
12になるまでこの世界で生きてきたんだ。今更何かが変わることはない。
何よりファニーは可愛いのだ!
他の部分などどうでも良い。ファニーは可愛いのだ!
悪役令嬢?
そんなのゲームの王子が悪いに決まってる。
なんであのバカ王子はこんなに可愛いファニーを選ばないのか全く理解が出来ない。
あの無表情で冷たく厳格だと見られている表情をよく見て見ろっ!
どこが無表情なんだと言いたくなるくらいに表情豊かだろう!
むしろ笑いそうになって一生懸命無表情でいようと努めているあの不自然に歪んだ唇! キスしてしまいたくなるくらいに最高に可愛いだろう!
いや、バカ王子にファニーはもったいないから、やっぱり分からなくていい。
ファニーは俺のものだ!
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