第4話 友人3の場合



 友人3の場合


 その兄貴は転生者だ。

 トラックの前に飛び出してはねられた、テンプレートな存在だった。


 乙女ゲーム「エメラルド・ジュエル」に出てくるキャラクターには、プロフィールが詳しく設定されている。

 それは、悪役令嬢として国から追放されるエメラルダも同じだ。


 エメラルダは、道端で歩いている他人が困っていても、すぐに手を差し伸べてしまう。慈悲深い人間だった。その人格は設定通りだと証明された。


「うわーん、ママとはぐれちゃった」

「大丈夫、お母さんはすぐに見つかりますからね」


 彼女は、迷子になったらしい小さな女の子の手をひいて、あっちこっちへ聞き込みしていた。


 お使いしている途中なのにだ。

 はぐれた保護者を探すまで、彼女は女の子を励まし続ける。


 彼女のそんな姿を見た裏路地の兄貴は、決意した。


 片っ端から自分の手下に、路地裏にたむろっている者達に声をかける。


「おい、お前ら! 姉御がお困りだ! 手助けするぞ」

「姉御が!? そりゃ、しかたねぇ」

「おう! いっちょやったろうじゃねーか」


 数分後。

 無事に女の子の保護者は見つかった。


 ただし、筋骨隆々とした無数の男達に囲まれた少女はガン泣きしていたが。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る