第22話 仲間の生還は信じるものだ

「改めて自己紹介をしよう。私はマーヌ、ナレディの叔父で、元屍兵団総指揮官だ」

 テーベの実家、応接室とおぼしき部屋にて。

「テーマです。ナレディの友人で現在の冒険者仲間、元屍兵団中隊長です」

 次はおれの番か?と思ってそわそわしてたら、テーマが代わりに紹介してくれた。

「こっちはトモ、同じく現在の冒険者仲間です」

 暖炉がパチパチとはぜる。でも全然落ち着かない。

 なぜって、暖炉で燃えてるのが、家の中に残ってたアンデッドの残骸だから。部屋がどんどん焼きアンデッド臭で満たされていくんですけど。

 さっき倒した強い奴は普通の火では焼けないから、テーベとマーヌさんが外に捨てに行ってた。

「なんでこいつら焼けなかったの?」

 って聞いたら、

「生前の肉体が身に着けてた装備が、憑依で肉体が変化した時に取り込まれたせいだろう」

 って。よく分からんけど、テーベを襲撃してた奴と、おれが玄関先で倒した奴は、屍術研究区でかつて暮らしてた鍛冶屋兄弟の死体を素体としてたらしい。

 耐火性のある服?装備?を着たまま死んで、そのまま憑依されると、そういうこともあるとかなんとか。

「鍛冶屋兄弟は二人だけだから、他は火に耐性のあるアンデッドはいないだろう」

 という結論で終わった。

「さっきトモにはたずねたが、私はナレディを探している。もしやと思うが、お前たちもか?」

「はい」

 マーヌさんが大きくため息をついた。

「あいつは本当に協調性というやつがない。別の場所を探そうということになって、勝手に先にどこかへ行きやがってな。こっちは追ってきたアンデッドを始末していたというのに。ろくに戦えないあいつのために、何体も何体も!」

 だいぶストレス溜めてたようだ。

「……すまん、そういうわけで、ナレディは今行方不明だ」

 おれとテーベは顔を見合わせた。

「ということは、ナレディはこの辺で一人はぐれてる、と」

「そういうことになるな」

「それってさ、あいつ、もう……」

 気が引けたけど言ったよ、おれ。誰かが言わなきゃいけないことじゃん? ナレディすなわちスポンサーが死んだということは、この冒険も終わりだな。誰かもっとふさわしい勇者のパーティがいつか倒すよ、魔王。

「いや、ここはあいつの庭だ。なかなかどうして逃げ隠れがうまい」

「そうですね、そう簡単にアンデッドにやられるような奴ではないです」

 おお、よくある仲間の生還を信じてるセリフ!

「というわけで、とりあえず朝までここで休もう」

「えっ」

 ナレディその辺でほったらかし?

「そうしましょう。陽が出てくれば、探索もしやすくなるでしょう」

「…………」

 ま、正直おれも賛成だわ。がんばって生き延びれよ、ナレディ。


 とはいえ。

「寝てていいぞ」

 と言われてはいるけど、こんな状況で寝れるわけでもなく。焼きアンデッド臭いし。

 で、寝てていいとか言ったテーベはアンデッド臭の部屋から出て行った。

「しかし驚いたな」

 ぼーっとしてたらマーヌさんに急に話しかけられた。

「へぇっ⁉」

 客に直接話しかけられた回転ずしの板前みたいな声出た。

「ナレディに聞いたが、貴殿は屍生者だとか」

「あ、えーと、はい」

 そうか、知られていたか。

「かつてナレディは心を持つ屍生者を生成して国から表彰されたが」

 表彰ってこれだったんか。

「試用の屍生者を部隊で使ったが、もっと自我が弱いようだった」

「そう……なんですか」

 おれも別に自我が強い方でもないと思う。会社では頼まれた作業はしょぼしょぼすべて引き受けてたし。

「それにしても、まさかエレナがやられるとは」

「確かに、エレナだけは攻撃されないと思っていました」

 テーベが戻ってきた。

「トモ、使えそうなものを見つけた」

 テーベがおれに何かを差し出した。剣の柄部分? に、鉄みたいな何か細い金属がちょこっと飛び出してる。短剣、と呼ぶにはその鉄はしょぼすぎる。

「なにこれ」

「魔導剣だ。魔法剣士が使う武器だ」

「ふーん」

 それだけ急に渡されましても。

「魔力の刃をここから出して使う剣だ。実際の剣に魔力を付与させるより軽いし、剣自体の耐久性を考えずに扱える」

「なるほど!」

「使い方は、またナレディに入門書を買ってもらえ」

「…………」

 誰も教えられる奴がいないってことだな。

「それより、エレナさんだけは攻撃されないと思ってた、って? そんなに強かったの?」

 そんな人がやられて、代打がおれだからな。退くなら今のうちだぞ、と言いたい。

「いや、強さの問題では……」

 テーベは少し考えたようだった。言うべきか言わずにいるべきか。いや、もしかしたら単純に、「この部屋焼きアンデッド臭いな」とか思ってたのかもしれない。

 とにかくまぁ、数秒後にテーベは言った。

「エレナと魔王は恋人同士だったからな」

「えっ⁉」

 ちょっと待てちょっと待てちょっと待て! 話が違う!

「あ、魔王というのは、かの者の名前を公の場で敵の名として言うわけにはいかないので、俺とナレディ、かつてはエレナとの間でつけた呼び名で……」

 マーヌさんに説明するテーベ。魔王、正式な肩書でもなかったらしい。

「それはナレディからすでに聞いた」

「エレナさんはテーベの恋人だったんじゃないの⁉」

 なんかめんどくさい感じでナレディから説明受けたぞ。あれはなんだったんだ?

「私もそう聞いていたぞ」

 と、マーヌさん。

「いや、俺は親同士が決めたいいなずけというやつで、実際の俺たちは兄妹のようなもので」

「ほぉ、なるほど~」

 なんか楽しそうなマーヌさん。恋バナ大会みたいになってきて気持ち悪い。

「実際、どこまで二人が深い仲だったかは知らないが、お互い好意があったのは確かなはずだ」

 ということは、「恋人の肉体に入って肉食いまくったり目やにつけたままうろついてる、よそから来た男」という、気まずい立場はまぬがれたってことで、オッケー?

 まぁ「妹的存在の肉体に入って肉食いまくったり目やにつけたままうろついてる、よそから来た男」になっただけなので、気まずさは全然あるんだけど。

「あの日俺たちを迎撃したのは魔王本人ではなかったから、そもそも魔王はエレナがあの場にいたことを知らなかったのかもしれない」

「知ってたら、エレナさんは殺されなかったかもしれない……?」

 その場合、おれがこの肉体に入ってこんなわけのわからないことにはならなかった。

「というかさ、なんで魔王と対立してるんだ?」

 テーベが片手を上げて、「静かに」というような姿勢をとった。

「物音がする。またアンデッドが集まってきたかもしれない。少し様子を見に行ってくる」

「私も同行しよう」

「お、おれは?」

「気を付けてここで待っててくれ」

「気を付けると言われましても……」

 焼きアンデッド臭が良くないのでは。ゴキブリだって焼けたゴキブリのにおいに集まってくるっていうし。

「魔王との因縁については、ナレディから聞くべきだ。すべてを知ってるのはナレディだからな」

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