第21話 主人公なら主人公らしく戦いの中で成長しろ!
心細いな……。頼むから風の音であってくれ……。こっちには何もいなかった、で終わってくれ……。
玄関までの短い道のりを戻る。ホールまで戻ったけど何もいない。ホールは両サイドに扉があって、そっちに入ったのかもしれない。
ええええええ! 嫌なんだけど確認しに行くの嫌なんだけどおおおおお!
まぁ行くけど。行きますけど。だって死ぬのはもっと嫌だからね。まぁおれすでに死んでるんだけど。
で? どっちを先に確認すべきだ? どちらかを選んですぐ戻るにしても、すぐ戻れるほど奥が浅いとは限らない。扉を開けたら部屋があってさらに奥に扉があって、みたいな。どこまで確認してったらいいのか分からない、みたいなことになるんじゃないのか?
そうこうしてる内におれを差し置いてテーベの方にどんどんアンデッドが集まってっちゃったりしないか?
「インテグメントゥム、デ、フラマ」
奥へ進む扉の前に炎の壁を置いてみた。とりあえずこれで数分足止めできるだろ。燃え移るかもしんないけど、仕方ないってテーベも言ってたし。
同じように玄関と、玄関から向かって左の扉の前にも設置した。いや、もう、燃え移ったらほんとごめん。
で、おれは向かって右の扉に手をかけた。扉をひく前に、向こう側の物音に耳をすませる。
……物音はしない。
ここでまた悩む。物音も気配もないこのエリアの探索に、おれは時間を割くべきなのか? だったらここにも炎の壁置いて、逆サイ確認しに行くべきなのでは?
とか思ってたら、玄関がガタッと鳴って開いた。
「えっ」
でかいアンデッドだ。そして速い。一瞬で炎の壁を抜けた。アンデッドの表面を焦がしただけで、火は燃え移らなかった。まじか。
おれは右手の剣を振った。全然距離があるのに振ってみた。剣にまとっていた炎が消えた。えっ今⁉ いや、振ったから消えたのかも? とにかくそんなことより迫りくるでかいアンデッド‼
「イーニス‼」
巨大な火の玉が、迫りくるアンデッドの顔面に直撃した。アンデッドがのけぞる。
「イーニス‼」
あ、しまった、これじゃ飛ばない。
「イーニス、ヴォラティリス‼」
もう一度。
「イーニス、ヴォラティリス‼」
考えてる余裕がないから、至近距離で火の玉をぶつけまくる。
えっ立ち上がるの? あんまり燃え移ってない感じ。もしかして火に耐性があるとかそういう? 防火体質?
どうしたらいいんだ?
「組み合わせたら強くなる」
前にナレディがそんなことを言ってたのを思い出した。
えっ、でもおれ、焦りすぎて呪文が出てこない。なんだっけ、羊を脅威にさらした熱風竜巻。やばい、無理だ、呪文、出てこない。
アンデッドが近づく。だめだ、なんでもいいからとりあえず出さないと。
アンデッドが腕を振った。
「うわあああああ‼」
おれが避けたのかリーチが足りてなかったのか、とにかく当たらなかった。た、助かっ……いや、まだ助かってない!
「イーニス‼」
叫んで後ずさる。アンデッドは一瞬ひるむ程度で倒れない。結構な規模な火の玉なんだけど?
やっぱ火が効かない奴なんだ。組み合わせろ、何でもいいから!
「イーニス‼ ……エット、ルクス‼ ……ヴォラティリス」
普段明り取りに使ってる光魔法合わせちゃったんだけど。
目の前で炎が揺らめいて、強い光をまとりながら球になった。それがアンデッドに向かって飛んでいく。
アンデッドの首を焼いてちぎり、壁を貫通し、炎と光の玉はそのまま外に飛んでった。
そしてアンデッドの首がゴトっと落ちて、身体も倒れた。
「……ひぇっ」
なんか、小さい太陽みたいな球体を生み出してしまった。そしてそれを野に放ってしまった。加えて足元に残るアンデッドの死骸。
「…………」
倒した、ってことで、テーベと合流すべきか、ここで待機して次の敵に備えるべきか。
奥の扉の前の火の壁、消えてるな。家に燃え移らなくてよかった。
ここで待機、しとこうかな。今のところ外からも左右の扉の向こうからも何かがいそうな気配はしない。
と、気が緩みかけた瞬間。
ガタっとまた玄関が開いた。なんでみんな玄関から入ってくるんだよ! 礼儀正しい奴らめ!
「イーニ……」
「待て」
入ってきた奴が言った。……人間?
甲冑を着てる。声が渋い。
ナレディか? と思ったけど、声が明らかに違った。
「さっきの魔法、お前か? ローブを着た男を見なかったか?」
「ロ、ローブ?」
ナレディのことかな?
「見てない、です……」
ナレディが会いに行くって言ってた人かな? でももしかしたら王国軍?とかの人で、ナレディを狙ってるとかそういう可能性もあるのか?
「連れとはぐれてな」
そういう設定で命狙ってる可能性もあるよな? ずいぶん疑心暗鬼だな、って? 仕方ないだろ、すべてが怖すぎて何にも心を開けねえんだ。
奥からガタガタ音がした。
「テーベ!」
おれはとっさに叫んで駆け出してしまった。一人で順調に戦ってる音かもしれない。でも反射的に助けねば!とか思ってしまったんだよなぁ。
奥の扉を通って廊下を抜けると、階段が正面にあるでかいホール。その左奥に、巨大なアンデッドがいた。アンデッドの尻がこっち側。テーベの姿は見えない。多分、アンデッドの反対側。アンデッドが壁に覆いかぶさるような姿勢。あの下にテーベがいるのか? もしかしてピンチじゃないのか?
さっきの炎と光の玉を出そうかと思ったけど、テーベに貫通しそう。一瞬、テーベの剣がアンデッドの脇の下から見えた。炎をまとってない。消えたのか。剣がアンデッドの太股辺りに当たって、途中で止まった。切断しきれず、固定されてしまっている。
完全にピンチじゃないか!
「イーニス、ヴォラティリス、プロッド!」
火の玉がアンデッドの尻に当たった。一瞬ひるんだけど、それだけ。こいつも火に耐性あるやつなのか?
「どいていろ」
さっきの甲冑の男が、おれの横を通り過ぎてアンデッドの背後に立った。
「ふん‼」
甲冑の男はジャンプして、アンデッドのふくらはぎに全体重で着地した。
「えっ」
武器で攻撃とかするんじゃないの?
アンデッドの脚の骨が折れたっぽい。ばきっと音がして、態勢を崩した。
「ふん‼」
甲冑の男は反対側の脚にも同じ攻撃を喰らわせた。アンデッドの爪が、ガッと壁にめり込む。
「おい、とどめだ!」
甲冑の男がおれに向かって叫んだ。
「えっおれ⁉」
「さっきの魔法で焼け!」
「イ、イーニス、エット、ルクス、ヴォラティリス!」
すさまじく光る炎の球体が、壁を貫通していった。……はい、外しました。アンデッドこっち見た。
「何をやっとる!」
「イーニス、エット、ルクス、ヴォラティリス!」
また外したー! やばい、当たらん! 違うんだ、人間が近くにいすぎるから! 当てたらやばいなって、それで狙いをちょっと反対側にしすぎちゃってちょっと!
「早くしろ!」
もぉ~~~、そんなこと言うなら自分でやってくれよ!
「イーニス、エット、ルクス、ヴォラティリス!」
あ、あ、当たらないよ~~~!
だ、だめだ、直接やろう。
「ヴェラメン、テルム、クム、イーニス、エット、ルクス」
剣に炎と光をまとわせた。それでアンデッドの首に刺す。怖い! 人型の何かを刺す。心理的抵抗が!
つい目をつぶってしまうおれ。剣は振り上げただけで、振り下ろすことも突き刺すこともできずにいる。
と、剣が勝手に動いた!
「あっ」
驚いて目を開くと、甲冑の男がおれの剣を奪ってアンデッドの首をはねた。
首が転がり、身体は爪が壁に刺さったまま、ぐにゃっと崩れ落ちた。
「ひとまず片付いたか」
「助かりました」
テーベが甲冑の男にお礼を言った。
「トモも、助かった」
おれにも言ってくれた。
「お、おぉ」
テーベが甲冑の男に向き直ってたずねた。
「マーヌ様、ですね? 屍兵団総指揮官の」
「えっ、偉い人?」
テーベがうなずいた。
「ナレディの叔父上でもある」
「えっ」
甲冑の男は兜を脱いだ。初老のいかつい顔が現れる。
「もう偉くなどないさ。屍兵団自体がなくなったんだからな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます