新たな地へ

天上界”アスライム”。ここにいる最上位の神グラントはとある目的のため、ここで誕生した神々に世界の創造を命じている。その目的は、世界を成長に導いた優秀な神のみにしか知らされていない。だが、長い間その目的は全く進展していなかった。グラント様から与えられた課題をゲーム感覚でやっている神が多いからだ。グラントは長い間アスライムの現実に頭を抱えていた。そんなある日、グラントに嬉しい知らせが届く。


 「ほうー、ようやく気付いた神が現れよったか。しかしこやつは根が問題ゆえに、早々に世界を消滅させると思っておったが、いやはや大したものじゃ。こやつを監視の対象にしておくことにするか」


 私たちが新たな世界を再構築しようと決意した同じころ、アスライムでも新たな計画が始まろうとしていた。


 一方アネモイの世界では、独立国家内で起こった事件の後、私たちは私をトップとした新たな国を造ることとなった。国とはいっても、今は人口約30名程の小さな村のようなものではあるが、人の上に立つ者として未熟な私にとってはちょうどよい大きさだ。これからこんな私についてきてくれる者たちと一緒に、少しずつ国を大きくしていき、いずれ世界を一つにまとめる存在へと成長させることが今の私の目標となっていた。


 新たな決意を胸に、美しい朝日に目を奪われていた私にセレナがゆっくりと手を差し伸べた。


 「これから、よろしくお願いします!」

 「ああ、よろしく頼む」


 セレナの手を取った瞬間、私は彼女の持つ強さの正体が分かったような気がした。彼女は”繋ぐ”力を持っている。手と手を。言葉と言葉を。想いと想いを。寄り道しないで真っすぐに。簡単なことを、簡単なままに。


 ”どうすればいいか”なんて”どうしたいか”で簡単に答えが出るはずなのに、その”どうしたいか”を選ぼうとしても自分の立場や、周囲の目のようなしがらみがあるせいで簡単にそれを選ぶことができない。だから誰だって、決断の際にはしがらみを上手にすり抜けるために難しく考えてしまう。


 でもセレナは違った。セレナの目にはしがらみだとかそういうものを全く見ていない。というか、見えていない。視野が狭いんだ。だから彼女は、目の前のことに何でも一生懸命に行動することができるし、自分が思ったことをありのまま発言することもできる。それが彼女の弱いところでもあり、何よりの強みでもある。


 その強さが、私の問題と答え、そして私と彼らを繋いでくれた。巻き込みたくはないとは言ったが、私が前進するためには彼女の単純さと繋ぐ力がどうしても必要だった。彼女の力はいずれ、この世界のすべてを繋いでくれるような気がする。そう思わずにはいられなかった。だから、私は迷わず彼女の手を取った。


 翌日、私たちは新たな国を造るための土地を目指して、国民全員でこの地を離れる準備に取り掛かっている。この地に送り込まれた国の兵士を消滅させてしまった今、兵士の帰りがないことに気付いた領主が再びこの地に兵士を送り込む可能性は十分に考えられる。そこで私たちは先日話し合いを行い、新たな地で一から開拓することにしたのだ。セレナは荷物をまとめながら、ふと思った疑問を私にぶつけた。


 「でもアネモイ様、新しい土地に引っ越してもまた別の領主から同じようなことされたりしないかな」


 もちろんそれも考えられるが、だがそれは世界を再構築していくうえで必ず乗り越えなければならない障害だ。私が世界を一つにまとめれば、領主たちはこれまで築き上げてきた地位を失うことになる。でもだからと言って、私の考えに反発した領主を神の力で消滅させようとは考えていない。誰もが世界に対して何かしらの不満を抱えていることは当たり前のこと。私が理想とする世界だってそれは例外ではない。必ず反発する者だって現れる。領主からの反発は、世界を再構築する上での予行演習としてむしろちょうどよかった。


 「なるほどねー。それにしても、昨日まで死んだような顔してたくせに随分とポジティブに物事を考えられるようになったじゃん」


 相変わらず、人の心に痛い傷跡を残してくる。そして当たっているが故に何も言い返せない。世界以前に将来のためにこいつへの教育を強化した方がいいかもしれんな。油断すれば、立ち直れないほど深い傷を負わされそうで怖い。すると、そこに一人の男がやってきた。


 「アネモイ様、全員の準備が整いました。みんな、あちらでお待ちしております」

 「わかった。今行く、ベルトード」


  ベルトードは元独立国家の代表責任者だ。私は独立国家に在籍していた頃、神を捨てきれずにいたためか人間たちを下に見ており、独立国家内の人間の名を覚えようとしなかった。セレナは元々何か惹かれるものがあったからなのか彼女の名だけは覚えていたが、彼がベルトードという名であることは昨日初めて知った。この時改めて、これまでの自分の行いが恥ずかしく感じられた。今は上に立つ者の基本として、国民の名はすべて覚えている。


 「ちょっと待ってよ、私まだ終わってないんだけど!」

 「ならばみんなで待つとしよう。お前だけをな」

 「あーもー、ひどーい」


 私とベルトードは大声で笑った。セレナは両頬を膨らませてはいたが、目は笑っているようだった。人との関わりの中でこれほど楽しいと感じたのは初めてだった。もしかしたら、こういうものなのかもしれない。誰もが自由に言葉を発し、最後には全員が笑って終わる。こんな平凡な一瞬の幸せが、私の望む世界の理想へのヒントへ繋がるかもしれない。些細な一歩ではあったが、前に進めた気がした。


 それからセレナの準備が完了してのは、1時間も先のことだった。セレナは私たちの前に、ごめんと言いながらも笑いながらやってきた。その態度に、さすがにイラつきを抑えきれなかった私はセレナに神の魔力をわずかに込めたデコピンを喰らわせた。さすがのセレナも額を抑えながら反省しているようだったが、彼女の強さには大きな弱点が備わっていると思い知らされた。


 「それでは行くぞ!我々の理想とする世界を目指して!」

 「はい!」


 国民を一ヶ所に集め、国民全員を取り囲むように魔法陣を展開した。


 「光の精よ、アネモイの名の下に我々を新たな地へと誘え。”ホーリー・レイ”!」


 これは魔法陣内にあるものを他の場所へと移動させる転移魔法。この世界の現在の地形は神である私は当然把握しており、どのあたりに私たちの国を造るのか場所も決まっている。しかしその場所は、どの国からも離れている土地ということもあって、ここから行けば子供の足を考えると2週間はかかりそうだった。その間、30人が一斉に行動すればお金はもちろん、食べ物だって足りるか分からない。だからやむを得ず、転移魔法で一気に行くことにした。 


 転移が完了すると、そこは近くに川があり背景には大きな森が広がる広大な草原だった。ここならば、飲み水はあるし、川や森に入ればそこは食糧の宝庫だ。元々独立国家の者たちは、国に頼らずここまで生き延びてこられたのだから自然の中での生活は問題はないだろう。国を造るにあたって、まず必要なのは国民全員の衣・食・住の確保だ。


 この国には11の世帯があり、成人の男は全部で11人、成人の女は11人、そして18歳までの子供がセレナを含め13人だ。労働力の少なさから労働力を確保するまで住はしばらくテントになりそうだ。衣は元々持っているから考える必要はない。食は先ほど述べたように自給自足で賄える。


 世界を再構築していくために、まずはこの国を大きくしていくことから始めよう。明日からやっていくことは山積みだが、世界の成長のためにやれることはすべてやっていくと決めた。私を信じ、ついてきてくれたこの者たちと共に。

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