ドラゴンのお伽噺 ~紫のドラゴン~

笹月美鶴

ドラゴンのお伽噺 ~紫のドラゴン~

 大陸の東の小さな島に、紫のドラゴンがおりました。

 紫のドラゴンには頭が八つもありました。

 体はひとつ。長い首についた頭が八つ。

 それぞれの頭が自由におしゃべりしています。

 だけどとっても仲が悪くって、八つの頭は毎日毎日ケンカばかり。

 じつに騒がしい困った子。


 ご飯を取り合って大ゲンカ。

 体は一つ。

 誰が食べても同じなのに。


 すてきなあの子にアプローチ。

 誰とつき合っても七つの頭がついてくる。

 みんな困って逃げていく。


 眠る時もひと苦労。

 誰かの首が誰かの頭にのっかって、ケンカになって眠れない。


 行きたいところがバラバラで、いつも首のひっぱり合い。


 とにかく仲の悪い八つの頭。毎日毎日大ゲンカ。



 ある日森をお散歩です。

 でも森の中ですっかり迷子。


 こっちだよ

 いやこっち

 あっちだよ

 そっちだって

 ちがうって

 こっちに行こう

 こっちだって

 ちがうちがう


 八つの頭はみんなちがう方向に行こうと言ってききません。


 そのうちみんなが意地になって、八本の木に首をからめてひっぱり合い。

 体は真ん中でぶらんぶらんとゆれています。


 みんな絶対ゆずらない。

 どんどんどんどんひっぱって、とうとう首が体から、ぶつりとちぎれてしまいました。


 頭がふわりと浮かんで八つの首が、八つの方向に飛んでいく。


 痛い。痛い。

 だけど、生まれてはじめての感覚。

 ああ軽い。体が軽い。

 横にも後ろにも誰もいない。


 一人の空間。一人の時間。

 自由だ。

 一人だ。

 なんて軽いんだろう。


 そんな、一瞬。



 頭は八つあるけれど、体はひとつ。心臓もひとつ。

 八つの首は少しの時間のたうって、そして二度と動かない。


 今度はばらばらに生まれようね。


 うん


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