最終話「試合後、そして…」

 新入にいり太陽たいよう剣ヶ峰けんがみね霧子きりこの野球拳式クイズ対決は、7回裏の霧子の攻撃中に予想だにしない結末を迎えた。


【決着時のスコア】

 太陽…得点2、着用物1、戦利品2

 霧子…得点9、着用物8、戦利品9


【霧子の着用物】

 ○スカート

 ○ブレザー

 ○女子用ネクタイ(女子はリボンと選択式)

 ○ワイシャツ

 ○インナーシャツ

 ○タイツ(黒色/60デニール)

 ○ブラジャー

 ○ショーツ

 以上の8点。


【太陽の着用物】

 ○前後逆に着用したワイシャツ


【試合結果】

 ○無効試合につき勝敗なし


 7回裏に突如行われた禁忌の接吻ノーサイド・キスにより、この対決は勝ち負け無しとなった。


「ふう…これで視えるわ。さあ、太陽たいようくん。あなたの考えを聞かせてくれるかしら?」


 霧子は眼鏡を掛けるとに戻った。

 年相応の女の子らしさを隠し、周囲から女帝クイーンと呼ばれる剣ヶ峰霧子という女に戻っていた。


「はい。霧子きりこさんが禁忌の接吻ノーサイド・キスおこなった理由は、8回表の僕の攻撃で試合終了になると考えたから。つまり、霧子きりこさんの着用物が0になるまでの残り8点を取られて負けると考えたからじゃないですか?」


「…随分と自信過剰な考察よみね。私の作る問題はそんなに甘くはないわよ?」


「確かにそうですね。僕は7回表までに累計で44問出題されてたった2問しか正解出来なかったので、霧子きりこさんの問題が難しいのはわかっていますし、普通に考えたら到底8点取れるとも思えません」


「ふーん…それならば、どうして私は私が負けると考えたのかしら?」


「それは、です」


 太陽は核心を突いた。

 その瞬間、霧子は微笑んだように見えた。


「ふふふ、どうやらこの試合、私の完敗のようね」


「いえ、禁忌の接吻ノーサイド・キスを使われてしまったので無効試合ひきわけです」


「ふっ、そうね。それにしても、まさかこんな結末ことになるとは思ってもみなかったわ。最初から7回の奇跡セブンズチャンスを使って眼鏡を奪うことは決めていたのかしら?」


「はい。霧子きりこさんの裸眼視力が極めて悪いことは噂にもなっていましたし、眼鏡を取ると本当に何も見えないと水無月みなつきさんから聞いていたので、僕が霧子きりこさんに勝つ可能性があるとすれば弱点そこをつくしかないと思いました」


 水無月とは、太陽を剣高クイズ部に連れてきた張本人、太陽と同じクラスで隣の席に座る女の子、水無月みなつきあかねのことである。


「そう、あかねちゃんが教えたのね…個人情報を勝手に教えるなんて、あの子にはお仕置きが必要みたいね」


「悪気があって話したわけではないと思うので程々にしてあげてください」


「もしあかねちゃんに悪気があったならば即時折檻よ。ふふふ…」


「それは厳しいですね…!!!」


 この時、太陽は気がついた。冗談みたく笑いながら折檻と言った霧子の目が全く笑っていなかったことを…


(マジか…水無月みなつきさん、もし何かあったらごめん……)


「とはいえ、あかねちゃんに悪気があるとは思えないわね。だから、あかねちゃんのお仕置きが程々になるかどうなるかはあなた次第よ」


「はい?」


新入にいり太陽たいよう、次はあかねちゃんと勝負をしなさい。これは部長命令よ」


「ええっ!?」


 突然の部長命令パワハラに驚きを隠せない太陽を畳み掛けるように霧子は話を続けた。


「今回の私との試合、これはあなたが本当にこの剣高クイズ部へ在籍するに値する人物か確かめるためのもの。文字通り試し合いよ」


 最後なので説明しておくが、剣高クイズ部とは、私立剣ヶ峰学園高等部クイズ部の略語である。

 そして、これは余談だが、私立剣ヶ峰学園中等部にもクイズ部は存在している。だが、野球式クイズ部対決が存在しているのは高等部のみである。


「でも、あかねちゃんとは試し合いではない本当の試合をしてもらうわ。互いに死を掛けた戦い、真剣勝負をね」


(負けても死にませんって…いや、待てよ?万が一、同級生に…それも同じクラスで隣の席に座る女の子に恋愛感情もなく全裸を見られたとしたら…それは確かに死ぬほど恥ずかしいかも知れない!いや、全裸を見る側になったとしても死ぬほど気まずい!これは何とかしないと!)


霧子きりこさん!ちょっと待ってください!その試合、じ…」


「辞退は許さないわよ?」


「!!!!!!」


 太陽の気持ちを悟ったかのように霧子が言った。


「辞退は許さない。もしも辞退したり、試合当日に逃げたりしてみなさい。酷いわよ?」


「う……ひ、酷いとは?」


 霧子はさっき折檻と言った時と同じ眼差しを太陽に送っていた。それは、眼鏡越しでもわかるほど鋭い眼差しだった。


「あら?太陽たいようくん、あなた具体的に聞きたいの?」


「で、出来れば一応聞いてみたいです」


「そう?それなら教えてあげるわ。もしこの試合を拒否するのであれば、私は次の全校集会の挨拶で、あなたに密室に呼び出されて眼鏡を奪われた後で無理矢理キ…キキ…キスされたと言うわ」


「ちょっと待ってください!それって明らかに…!!!」


「明らかに、なに?」


「あ…いやその……何でもないです。何でもないですけど、霧子きりこさんはズルいです」


「ふふ、のよ。覚えておきなさい」


 この時、霧子の顔は真っ赤だった。

 その理由は、キスという言葉を発したことにより、自分が太陽とキスをしたことを思い出したからだった。霧子は数分前に太陽とキスをしたことを思い出して顔を真っ赤に染めていたのである。

 それを見た太陽は霧子に対して何も言い返せなくなってしまった。

 数分前のキスを思い出して顔を真っ赤に染めながら脅迫してくる女の子、そんな女の子を非難出来る男はそうはいないだろう。

 事実、照れながら脅迫してくる霧子に太陽は何も言い返せなかった。

 況してや女帝クイーン・剣ヶ峰霧子のそんな姿に対して言い返せるはずがない。それ故に太陽は霧子に対してズルいと言ったのだった。


「覚えておきます。霧子きりこさんはズルい女なんですね」


「なぜ私だけなのよ。女はみんなズルいと教えたでしょう?それに色々とって何なの?文句がある時は明確にしなさい」


「色々は色々です」


太陽たいようくん、それでは全く答えになっていないわよ」


「なら一つだけ教えてあげますね」


「上から目線なのが気にいらないわね。でもまあ聞いてあげるわ。さっさと言いなさい」


霧子きりこさんがってことですよ!それじゃあ僕はもう帰ります!」


 太陽は言うことだけ言って剣高クイズ部の部室から飛び出していった。


「ななななっ!?何を言うのよ!?ちょっと待ちなさい!こら!逃げるつもりなの!廊下は走らないの!」


「ごめんなさい!お叱りは今度受けますから今日は失礼します!」


「待て!新入にいり太陽たいよう!!!」


 霧子が校則を破って太陽を捕まえんがために駆け出そうとした時だった。


剣ヶ峰けんがみね霧子きりこ理事長、剣ヶ峰けんがみね霧子きりこ理事長。至急、理事長室へお戻りください。繰り返します。剣ヶ峰けんがみね霧子きりこ理事長―――』


 剣ヶ峰学園の理事長でもある霧子を呼び出す校内放送が流れた。


「ちっ!こんな時に何なのよ、まったく!…まあいいわ。太陽たいようくん、覚悟しておきなさい。私のファーストキスを奪ったあなたを私は逃がさない。これからも楽しませてもらうわよ。ふふふふ…」


 霧子は太陽の後ろ姿に語りかけていた。

 さっき行われた禁忌の接吻ノーサイド・キスは、霧子にとって人生で初めてのキスであった。


 ここで、時間停止タイムストップ

 太陽と霧子が途中で説明をやめてしまった、霧子が禁忌の接吻ノーサイド・キスを使った理由を詳しく説明しよう!

 その理由は、太陽いわく、霧子が次の回の太陽の攻撃で8点取られて負ける、つまり全裸にされると判断したからということである。

 では何故、霧子は太陽の攻撃で負けると判断したのか?

 その理由が隠された部屋の扉を開く鍵は三つある。

 一つ目の鍵は、太陽の言った眼という言葉である。眼とは言わずもがな霧子の裸眼視力のことである。

 二つ目の鍵は、出題ノート。

 三つ目の鍵は、この二人の野球拳式クイズ対決には本来ならばいるべきである審判がいないことである。

 霧子の裸眼視力、出題ノート、審判がいない、この三つの鍵が合わさると霧子があの場面で禁忌の接吻ノーサイド・キスを使わざるを得なくなった理由が見えてくる。

 では、これらの鍵で扉を開けていこう。

 まずは、三つ目の鍵の扉!

 審判がいないため、出題者による不正の確認は互いが互いに行うことになっている。

 次は、二つ目の鍵の扉!!

 出題者は出題する問題とその答えを必ず出題ノートに記入していなければならない。

 最後に、三つ目の鍵の扉!!!

 霧子は裸眼ではほとんど何も見えない。

 これらを組み合わせた結果、以下のような結論が生まれる。


 !!!


 何故なら、霧子は裸眼では何も見えないため出題ノートの内容を見れなかった。出題ノートに記入した問題の内容を記憶していたとしても、その問題がしるされたページが何ページ目なのかまでは記憶していないため、太陽が出題に異議を唱えた時に出題ノートを確認して納得させることが出来ない。

 7回表の失点後の出題に関しては、眼鏡を奪われる前に出題ノートを一度確認していたため、辛うじて出題ノートと出題内容の一致が保たれていた。それ故に眼鏡がなくとも出題を続けることが可能であったが、8回表にまた出題するとなるとそうはいかない。如何に聡明な霧子と言えど、数多の問題を記入した出題ノートの内容が何ページのどの辺りに記入されているのかを記憶することは不可能なのである。

 7回表に眼鏡を奪われる前に少し見ただけの出題ノートに書かれた内容、それを6問に渡って完璧に記憶していただけでも霧子の常人離れした記憶力を推し量れるが、さすがの霧子もそれ以上の記憶は曖昧だった。

 それに加えて、7回裏開始時点で太陽がタイム制度を使って時間を置いたことで記憶がより曖昧となり、少し前に見た出題ノートに書かれた内容を鮮明に思い出すこと、霧子にはそれが出来なくなっていた。

 だからこそ霧子は7回裏で試合を終わらせる予定だった。

 しかし、太陽の使った視覚に頼った出題形式により霧子は7回裏に試合を終わらせることが出来なくなった。

 これらの事情により、霧子は8回表を迎えることが確定した。それはつまり、連続押し出しによる負けが確定したのである。

 そして、負けるとなると必然的に全裸にならなくてはならない。それを避けたいがために霧子は禁忌の接吻ノーサイド・キスという手段に出たのである。

 これは、霧子の視力と出題ノートと審判がいないこと、三つの要素が全て合わさったことにより生まれた運命の悪戯バッドラックであった。

 もし、霧子の裸眼視力が悪くなければそうはならなかった。

 もし、出題ノートというルールがなかったならばそうはならなかった。

 もし、この対決に一人でも審判がいたのならばそうはならなかった。

 しかし、三つのはどこにも存在していない。

 あるのは、結果のみ。

 果たしてこの結果は、本当に運命の悪戯バッドラックだったのか?それともクイズの女神の後押しだったのか?はたまた、ただの偶然の産物だったのか?


 否!


 否!!


 否!!!


 断じて否である!!!!


 この結果は、新入太陽という男の考えた戦略により導かれたものである。

 そこに至るまでは紆余曲折あったものの、7回の奇跡セブンズチャンスによる眼鏡を奪ってからの展開は、結末の禁忌の接吻ノーサイド・キスを除いて全て太陽の思惑通りだったのである!

 もし、禁忌の接吻ノーサイド・キスというルールさえなければ、太陽は剣ヶ峰霧子を確実に全裸にしていたことだろう。

 しかし、この世になんてものは存在していない。

 禁忌の接吻ノーサイド・キスこそが結果である。

 以上だ!!!!!!!


 では、時間停止タイムストップ解除!


「ふぅ…やっと終わった。まったく、野球拳と野球式クイズ対決を組み合わせるなんて霧子きりこさんは変なこと考えるよなあ…」


 霧子から逃げる様にして学園を飛び出した太陽は帰路にいていた。

 激動の試合を乗り越えた太陽は独り言が止まらなかった。


「でも、もしあのまま禁忌の接吻ノーサイド・キスが使われなかったら霧子きりこさんの裸が…いかんいかん!こんなこと考えていたらそれこそ霧子きりこさんの言う通りの変態じゃないか!それにしても霧子きりこさんの唇、柔らかかったなあ…いや待て待て!それよりも次だ次!…次は水無月みなつきさんと試合をしないとならないんだよな。負けても地獄、勝っても地獄だよ…いや待てよ?そうだ!僅差の試合をすれば良いんだ!何も脱がせることはないんだよ!勝っても負けても僅差なら気まずくもならない!よし!次はそれで行こう!…でも水無月みなつきさんって意外とんだよなあ…いやいやいかん!余計なことは考えずに僅差で勝つ!脱がない脱がせない!これ絶対!…でも細身なのに出るとこ出てるからなあ…だから待てって太陽たいよう!落ち着け太陽たいよう!煩悩退散!欲望必滅!僕は断じて変態ではない!裸を見ることよりも平穏な学園生活優先だ!」


 太陽は、霧子から命じられた次戦に向けて色々と考えていた。


 


 それが同じクラスで隣に座る水無月茜との野球拳式クイズ対決を乗り切るための戦略だった。

 しかし、そうは言っても太陽も年頃の男であり、童貞である。どんなに繕っていても女体への興味は隠せないのである。

 気まずさと理性と煩悩と友情の狭間に揺れる新入太陽…果たして彼は次戦を生き残ることが出来るのか!?


 ズガーン!!!※落雷のSE※


 次戦、公開未定!!!!!!!

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