第6話「続・7回表」

 新入にいり太陽たいよう剣ヶ峰けんがみね霧子きりこの野球拳式クイズ対決は、7回表に太陽が得点を獲得した。

 7回表、ついに太陽の反撃の狼煙のろしが上がった!


「やった!やったぞ!!!」


「……ふふ、2点を返したくらいで随分な喜び様ね。まだ点差は7点もあるのよ?それに裏には私の攻撃がある。そうなればすぐに元通りよ」


「そうですね。確かに点差はまだ7点もあります。まだ7点差ですが、霧子きりこさんはもう。あとは僕が一方的に点を取るだけです」


「は?太陽たいようくん、何を言っているの?バカ言っていないでさっさと服を取って着なさい。2点分だから2着よ」


 霧子は太陽の言葉の意味がわからず、試合を進めようとした。


「やっぱりですね…」


「は?」


霧子きりこさんは圧倒的な強さだから、やっぱり忘れていたんですね?」


「なんのことかしら?」


 太陽の用意した秘策を使う瞬間ときが来た!


「今は既に6回を過ぎていて、試合後半に入っています。尚且つ今は7回…ラッキーセブンなんですよ?」


「は?試合後半とかラッキーセブンとか、それがどうかし…っ!!!」


「思い出しましたか?」


 霧子は自らが作った野球拳式クイズ対決のルールを思い出した。


「試合後半の…そして、……くっ…」


「そうです!その特例と7回の奇跡セブンズチャンスです!」


 ここで、時間停止タイムストップ


 野球拳式クイズ対決に設けられた試合後半の特例と7回の奇跡セブンズチャンスについて説明しておこう。

 まず、試合後半の特例というのは、着用物の着脱についてのルールである。

 野球拳式クイズ対決は、1点を取られたら着用物を1点取られるのは言わずもかなだが、点を取り返したら着用物をになっている。つまり、どちらかがリードしている場合、リードしている側は常に着用物を10点保持している状態となる。


 しかし!


 しかし!!


 しかーし!!!


 試合後半、つまり6回以降の得点に関しては特例が用いられる。

 相手を全裸にした時点で勝利が確定する野球拳式クイズ対決において、試合後半は着用物をという特例が適用される!

 この特例がある故に、野球拳式クイズ対決の前半までの結果は、10点差コールドに出来なければ単なるアドバンテージを得ていただけに過ぎなくなる。

 前半にリードしている状況ならば、リードしている側は自らの着用物10点に加えて奪い取った相手の着用物を所持しているため、実質的には着用物が10点を超えていることになる。なぜなら、前半は着用物を奪われていた場合には取り戻さなくてはならない決まりがあるため、相手が同点に追い付くまでは相手の着用物を取り戻されるだけであり、リードしている側は着用物は脱ぐことがなくなるからである。

 つまり、前半にリードしている側は点差が開けば開くほど自らが脱ぐというリスクを負わずに済むのである。

 しかし、それはあくまでも試合前半までの話である。

 特例が適用される試合後半に入ってしまえば、点差が付いていたとしても脱ぐリスクを負わずに済むわけではなくなる。着用物を取り戻さなくてもいいという特例が適当される後半において、後半に入った時点で相手がパンツ一丁だろうが全裸にネクタイ一本だろうが、その後の展開次第では一気に自らが脱がされるリスクを負うことになるのだ。

 この試合後半の特例により、野球拳式クイズ対決の後半において、互いに1点ずつの着用物しか保持していないという状況になることもあり得るのである。

 前半の結果如何は関係なく、後半の6回から試合終了までに10点を取ることが出来れば問答無用で相手を全裸に出来る!

 これこそが、試合後半の特例の恐ろしいところであり、面白いところである。

 無論、先に述べた様なという状態になるのは、互いに自分の着用物を取り戻さないことが前提条件のため捨て身の作戦と言えるが、野球拳としては脱いだものを着直さないのは正しいことと言える。

 脱いだ服を再び着用することなど出来ないのが本来の野球拳であり、互いに脱がされてこその野球拳なのである。


 次はもう一つの特例、7回の奇跡セブンズチャンスについて説明しよう。

 7回の奇跡セブンズチャンスとは、俗にラッキーセブンと呼ばれる7回の攻撃時のみに許された特例中の特例である。

 野球拳式クイズ対決で点を取られた際、何を脱ぐかはが任意に選択することになるが、7回の得点においてはが任意に選択出来る。

 つまり、野球拳で優先的に脱ぎ捨てられるネクタイや靴下を飛び越えて、あんなものやこんなものを脱がすことが出来るのである!

 とはいえ、あんなものやこんなものを脱がすことが出来る7回の奇跡セブンズチャンスにおいても着用物の順番を越えることは出来ない。

 例えば、ズボンやスカートやブレザーやワイシャツを残したまま下着を指定することは出来ない。

 タマネギやレタスを外側から剥くように、着用物も外側から指定して脱がしていくことしか出来ないのである。

 ただし、着用物に帽子やマフラーなどの重ね着に当たらない着用物やピアスや時計などの装飾品がある場合、それらは無視することが出来る。

 なお、ワイシャツに着用するネクタイやリボンなども帽子やマフラーと同じ重ね着に当たらない着用物扱いとなり、下着にネクタイやリボンのみを残すという変態的な格好になる脱ぎ方を指定することは可能である。

 一応告げておくが、上記のルールは本家の野球式クイズ対決には存在していないものであり、剣高クイズ部の野球拳式クイズ対決のみで適用されるオリジナルルールである。


 では、時間停止タイムストップ解除!


「くっ…この太陽へんたい7回の奇跡セブンズチャンスで私を脱がせて辱しめようというのね…でも2点ならまだ………」


 霧子は自らの着用物を考え、まだギリギリセーフだと感じていた。


【霧子の着用物】

 ①ローファー

 ②スカート

 ③ブレザー

 ④女子用ネクタイ(女子はリボンと選択式)

 ⑤ワイシャツ

 ⑥インナーシャツ

 ⑦タイツ(黒色/60デニール)

 ⑧ブラジャー

 ⑨ショーツ

 ⑩メガネ(裸眼の視力は0.0001未満)


 これから霧子は、以上の①から⑩の内、太陽に指定された2点を脱ぐことになる。

 しかし、ルールとして、本人が選択して脱ぐ以外は着用物の順番を越えることは出来ないため、仮に太陽が霧子の上半身を脱がせようとした場合、ブレザーとワイシャツを脱がすことになり、上半身はインナーシャツにネクタイという格好になる。これはブラジャーの上にシャツを着ているため基本的には安全圏である。


 が!


 が!!


 がっ!!!


 仮に太陽が霧子の下半身を脱がすことなった場合、霧子にとってやや問題である。

 霧子が下半身に着用している物はからスカート、タイツ、ショーツである。これはつまり、太陽からスカートとタイツを指定された場合、下半身はショーツのみにされてしまうのである。

 上半身はブレザーまで完璧に着ているのに、下半身はショーツ1枚と生足ローファーという屈辱的な姿にされてしまうのである。

 プライドの高い霧子にとって、この格好は裸にされたわけではないものの、非常に屈辱的な格好と言える。

 しかしながら、霧子が元来のタイツ派のため靴下を常用していないことにより、下半身だけ裸の半裸状態にされるという最悪の事態は免れたとも言える。

 もし、今日の霧子が靴下を着用していたとするならば、下半身はローファーと靴下のみを残して半裸にされていた。

 今回の失点が2点止まりだったこと、そして元来のタイツ派だったこと、それらの要因により霧子はギリギリセーフの格好、下半身がショーツと生足ローファーになるだけで済んだのである。


霧子きりこさん…今、太陽たいようって書いてと読みませんでしたか?」


 確かに霧子はそう言っていた。


「それがどうしたの変態たいよう。さっさと脱ぐ物を指定しなさい。瞼を閉じたままでもあなたが太陽へんたいなのは分かりきっているわ。なにせあなたはだもの」


 霧子の言ったノーパンスカートの意味は、『続・1回裏』のエピソードにて交わされた二人の会話を読めばわかるので、まだ読んでいないというのであれば是非とも読んで頂きたい。


霧子きりこさん、完全に太陽たいよう変態へんたいの読み方が逆になってます」


「うるさいわね!私の言葉をんじゃないわよ!良いからさっさと指定しなさい!どうせスカートとタイツを指定するのでしょう!この変態陽へんたいよう!」


「………」


 太陽はすぐには答えなかった。

 それは、頬を紅潮させながらかつてない屈辱的瞬間を待つ霧子を焦らすようだった。


 太陽は霧子の言う通りに霧子の下半身を脱がすのか、それとも…


 次回へ続く………

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