第4話
どれくらい経ったでしょうか。
重い身体を起こして目を開けると何かがそこに入り込み、彼女は瞼を閉じました。
眉毛をへの字に曲げてその表面を払ってみると、それは薄い月明かりに照らされて星屑の結晶のようにキラキラ光る白い砂でした。
彼女はどこかの砂浜に打ち上げられていました。
寄せては返す波の音が、かすかに見える薄暗い水平線に響いています。辺りを見渡すと砂浜は広くて、夜空には月が見下ろしていましたが、それは少し透明になっていました。
藍色の空、海岸、砂浜、水平線。
それは静かになにかを待っているような景色でした。
みんな静かになにかを待っていて、高いところにいる月だけがその正体を知っていて、少しずつその色を変えていく。そんな景色。
彼女は気づいていませんでしたが、月光に照らされて銀色に光っていたその白い髪もまた、変わっているのでした。
そして、藍の空に一筋の光が突き抜けて、その割れ目からオレンジ色が空に溶けだします。
それは夜明けでした。
空が染まり、
海が染まり、
砂浜が染まり、
彼女も染まっていきます。
白い髪はそのオレンジ色を吸い込み、まるで爆発寸前の星のようになりました。
ボロボロで朽ち果てる寸前の身体の中に、何かが生まれてきているのを彼女は感じています。
オレンジ色は果てしなく、世界の全てを新しい可能性で染めていきます。
彼女は見とれていました。
そして思います。果たして見えていただろうかと。
選ばなかった未来。教科書の中の彼女たちは生き生きとしていて、ボロボロじゃなくて、だけどこの空をこんな風に見えていただろうか。
彼女は見とれていました。
そして思います。選ばなかった未来がどうなっていたかはもう分からない。
分からないからこそこの先も、ありとあらゆる手を尽くして私のことを焦らせようとしてくるだろう。
それでも、この空をこんな風に見えている今はかけがえなくて、それはきっと幸せ、それがたぶん幸せなんじゃないかって。
彼女はそう思ったのでした。
夜が明けていきます。
夜明けのオレンジはやがて昼間の太陽に変わり、砂浜が、海が、空が目を覚まします。
いつもと変わらないような一日。
彼女もまた、その白くて長い髪をそのままに目を覚まし、どこかへ向かっていきました。
しかしその姿は、オレンジ色が少しだけ混じった、今までとは確かに違った彼女なのでした。
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