第3話
水が、速度を上げて流れ出します。
ゴ、ゴ、ゴ
からからとかき混ぜられるコップの中のように彼女の周りは崩れ去り、教科書たちも散りじりになっていきます。
彼女は離れ行く自分の未来に向けて手を伸ばしましたが、それは彼女の掌から流れ続ける赤い血に触れると、まるで火の中に投げ込まれたみたいに燃えてしまうのでした。
「社会」の彼女が燃え
「国語」の彼女が燃え
「数学」の彼女が燃え
「理科」の彼女が燃え
「道徳」の彼女が燃え尽きる。
燃え尽きる瞬間、彼女はどうしてもおかあさんに答えを伝えようとしましたが、最期にやっと目が合うと、言葉は出てきませんでした。
水が、速度を上げて流れ出します。
真っ赤な炎のような自分の血に包まれた彼女は「ああ、やっぱり痛くないなあ」なんて考えながらどこかへ流れていきます。
水はますます速度を上げ、彼女を囲んでいた世界は崩壊し、彼女は一緒に流れていた石にぶつかり、岩壁にがりがり身体を削られ、尖った木の枝に手足を貫かれながら、黒い宇宙に浮かぶ真っ赤な星のように流れていきました。
やがて彼女の身体から致死量を超える血が流れだし、少し眠くなった彼女が目を閉じると、炎の中から再び彼女の白くて長い髪が現れました。彼女の身体はボロボロで、所々に穴が開いたりしていて、残った身体にはもう、自分の将来を燃やし尽くすほどの力は残っていませんでしたが、それでもその髪はそのままでした。
それは彼女がどうしても取っておきたかったもので、つまりは自分の好きな色。
生き生きとした将来を失って、死んでしまってもいいから自分の中に残しておきたかったものでした。
流れて、流れて、ついに世界の崩壊は終わり、水はやっと静かになりました。
燃え殻となった彼女はそれでも、どこか満足そうに微笑んでいました。
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