第35話 幕間
階段を上った先、
突き立った三又の槍が見える。
あれが、神器……、やっぱり、存在感がある。
近寄るのさえ、勇気がいるような、
近づくほどに重圧が足を重くさせるような、そんな威圧。
誰も近づくな、そう言っているようにも……、
「あなただったんだね……」
隣では、ニャオが見上げ、そう呟いていた。
そして、私が動かせない足を、ニャオは簡単に進ませる。
――ううん、私はいけない。
だから、ニャオだけで、ね。
繋いでいた手を離す事に、ニャオは不満そうだったけど、
私のしんどそうな顔を見て分かってくれたらしい。
すぐ戻るね、と言い残し、
階段を一段一段、上がっていく。
酸素スーツは自然と脱げていた。
というより、耐久力がなくなり、もうほとんど機能しなくなっていた。
そのため、自然と脱げた……、裂けて脱げたって感じかな。
だから危なかった。
ギリギリだった。
あと少し遅れていたら、深海で私達は生身でいる事になっていた。
ふぅ……、ともかくこれで、なんとか。
ニャオに神器を渡す目的は――、
「……違う」
大津波を起こして、
島を破壊する事を待つ相手が、今も忙しく動いているはずがない。
じゃあ、する事と言えば?
守りに徹する、もしくはニャオがなにかをしようとしたら、阻止するか……、
つまり。
神器が目の前にある、
それを取ろうとするニャオを、放っておくわけがなくて――。
だから、考えられるとしたら――罠!
ダメ、ニャオっ。
「進んじゃダメ! リタが、やすやすと神器を渡すはずがないも
「いいや、渡すね」
空白があった。
振り返ったニャオが、目を見開き、唇を震わせる。
言葉が出ない。
私も同じように言葉は出ず、出るのは吐き出された血……のみだった。
神聖なる場所である神器が収められたこの大広間に、赤が染み込んでいく。
だけどあっという間に綺麗になった。
……あはは、掃除いらずの、メイド殺し。
私の中から『それ』が引き抜かれ、喪失感が現れる。
刺さっていたそれは私のものじゃないんだけど……。
そして、栓を抜いたように、中身が流れ出ていく。
喪失感を言うなら、こっちか。
支えの足に力が入らなくて、ゆっくりと倒れる。
地面が冷たい……、それよりも、痛い。
苦しい、聞こえない。
ニャオが叫んでいるみたいだけど、なにも聞こえない。
……しかし、やられたなあ。
まさか、神器を手に入れようとするニャオじゃなくて、私を狙うなんて。
なに? 開き直ったの?
ニャオに神器を渡してもいいと――、いや、そっか。
ふうん、邪魔者を消したかっただけ?
二人きりになりたかったわけなの……、リタ?
「ああ、二人きりで、一騎打ちをね」
途切れる意識の寸前、リタは姿を変え、本来の黄金の蛙の姿に。
そして、見える世界が崩壊していく。
それはニャオが神器を持った事で起こった現象だった。
海底ダンジョンに亀裂が走り、海水が流れ込む。
轟音と共に沈んでいく――あっという間に。
私を抱え、脱出するニャオの顔は、
とても男の子には見せられないもので。
伸ばした指で、涙を拭った。
どうやら、私はここまでらしい。
というか、これ以上はさすがに私や、たとえアルアミカだろうとも、
口も手も、挟む事はできない。
神獣と神器。
神の戦いに人間ごときが入り込む余地はないのだから。
ここから先はニャオの仕事。
――お姫様の仕事。
国を背負う、あなたの役目。
ごめんね、ニャオ……。
まあちょっとくらい、騙してもいいよね?
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