第32話 錬金術
「神器……」
レプリカではなく、本物の。
カランと一緒にいった海底ダンジョンにあったんだ、と、アルアミカが説明した。
そう言えばだけど、
なんでカランがあんなにボロボロになったのか、理由を聞いていなかった。
しかし……、理由も聞かずに私はアルアミカをボコボコにしたのか……。
今更ながら、ぞっとする。
もしも仕方のない事故だったとしたら、アルアミカに責任はないのに。
まあ、カランが無謀にも一人でダンジョンにいくはずもないので、
じゃあアルアミカが誘ったのだから、アルアミカのせいだろうと連結できるけど。
あと、訂正しておくと、ボコボコとは言ったけど、
私の攻撃は一発なので、ぼこっ、って感じだから。
ボコボコほど、怪我の具合が酷くないように聞こえる不思議。
言葉って便利だねー。
真相をもみ消すのに、応用性が高いんだもん。
「人間の悪意の総合を見た気がする……」
失礼な事を言うアルアミカは放っておき――、
いやダメだ、アルアミカの説明がないと前に進めない。
続けて、と話を促す。
「こほん、仕切り直すけど……、
神器を取りにいくわよ。
本物の神器なら、ニャオにぴったりと適応されるはず」
え、わたし? と、他人事のように聞いていたニャオが驚く。
……知らなかった、とは言わせないよ。
だけど本当に知らなそうなんだよねえ……ニャオならあり得る。
この国に神器が一つもないのも気になるし……。
王城を探索した時に、大広間に飾ってあった神器らしき存在感を放つ剣があったけど、
存在感はあっても、存在はないに等しかった。
つまり、外側は神器(レプリカではなく)でも、中身は抜かれてる。
能力のない神器――、
まるでダミーみたいだった。
真相を、ニャオは知らなそうだし、
ウスタさんが、しかし神器の取り扱いという深いところまで知っているのかな……。
まあ、どっち道、今は関係ない。
使えない神器の存在など、ないに等しいし。
「王族と神器は相性が良いのよ。
……神器と適応すれば、強力な能力を得られるけど、制限がかかってしまう。
だけども王族なら話は別。無制限に神器の力を引き出せる――」
おおー、凄いねえ、と驚くニャオ。
ただ、無制限であって、無限ではないからね?
弾が無限にあるんじゃなくて、
普通の人なら四つまでしか持てないところを、
王族なら本来の六つまで持てるって意味だから、勘違いしないように。
つまり、最初から足枷がないって言えばいいのかな。
かと言って、誰もが一発で神器の力を引き出せるとは限らないけど。
いくら選ばれし者でも、練習は必要だ。
手の届かない場所にいる英雄だって、人間なんだから。
元々のスタート地点は同じなわけよ。
「わたしが神器を持てば、
止められるかどうかと言えば、不可能ではないかな、と思う。
ただ、ゆっくり作業できるとは思えない。
邪魔者をどうにかしなきゃね。
「安心しなさい、魔法でサポートするわ」
「安心できないわよ」
怪我人がなにを言う。
馬鹿なの? 馬鹿だったよね、忘れてた。
口で言っても聞かなそうだから、傷口を広げるかな。
私、得意なんだよね、傷口を開くの。
アルアミカの体にあるそれよりは、
精神的なトラウマをほじくる方が好みだけども。
「で、でも、あんたに任せるのは不安過ぎるでしょ……っ」
「――む。なめないで。ニャオくらい、守りながら戦えるわよ」
思わず、出てしまった本心とは違う言葉に、アルアミカがにやりと笑って、
「だったら良かった」
くすくす、と笑いを含ませながら。
こいつ……、
私が思わず言っちゃった言葉だって知りながら、押し付けてきたな……。
アルアミカの視線には、
やる気になればできるでしょ? という意思が貼りついていた。
確かに、やる気になれば。
……疲れる事はあまりしたくない私はいつも人任せ、傍観者、それに徹していた。
結局、なにをするにもカランがメインだったし、
私のする事なんてあと片付けとか、簡単な確認だけだったし。
とっても楽な、毎日のサイクル。
まー、だからつまんなかったけど。
カランといるのが楽しいだけで、仕事なんてなにも面白くなくて。
仕事なんて、したくなかったよ……。
いいよねー、好きな事を仕事にできてる人って。
故郷の親友は今頃、好きな事でお金を貰ってるんだなあ、とか考えると、腹が立ってきた。
音沙汰がないのもムカつく。
まあ、便りがないのは無事な証拠とも言えるけどさ。
ちょっとは連絡を寄越せよ、と思う。
正気の沙汰じゃないよねえ。
ともかく、こんな私にも必死になれる役目があった。
錬金術師だけども、嫌々、錬金の仕事をしているのは私くらいだろう。
他の人の事は知らないけどね。
嫌々ばかりで、嫌々ばっかり言って。
自覚あるクズな私は変わる事をしなかった。
現状維持で良かったからねー。
……でも、そろそろ変わらないと。
じゃないと、ニャオもアルアミカもカランも、みんな失っちゃう。
日常的に感じる嫌々よりも、それは嫌だったから。
「守るわよ。ニャオを、責任持って、神器のところまで送り届ける」
帰ってきたら好きな事をしよう……、
そうね、たとえば――メイドさん?
ちょっと気に入っている事はナイショの話。
カランにも、言っていない事だ。
「出発するその前に、錬金ターイム」
いぇーい、とニャオまでノリが良かった。
うん、建前と本音の境界面を吹き飛ばして吹っ切れてくると、これが私って感じ。
気持ち良くて心地良くて清々しい。
気を遣わない相手ってサイコー。
目の前にいるのは姫様なんだけどね。
たとえば、これが祭りの国の姫様だったら、即打ち首ものだよ。
まあ、そういう相手にこそ、私の建前が一番、通じるんだなあ、これが。
「なにを作るの? 錬金術を見るのは初めてだから、すっごい楽しみ」
ワクワクできるのも最初だけだよ。
みんなが想像しているものに近かった事なんてないんだから。
錬金術は、自然とぽんぽぽん、とできるって思っている人が多いけど、
ははあ、そういうわけじゃないからね?
現実を見て。
そしたらこっちも、錬金術師の現実を見せてあげる。
アルアミカに上着を貸したままの私は、アルアミカの服を借りる。
魔法使いの服――、意外と似合ってるかも、と自画自賛。
魔法使いみたいな錬金術師が生まれたわけだけど、
これってば意外と歴史的に稀な状況かも。
ま、完全に和解したわけじゃないからそうとも言い切れないか。
――さて、それじゃあ錬金を始めるとしよっか。
言うと、ニャオは、
「それで、なにを作るの?」
錬金術……、素材Aと素材Bを組み合わせ、新たなものを生み出す能力。
既存のものを作ることも、存在しないものを新たに生み出す事も可能。
ま、それなりのルールがあるわけだけども。
中には代償なんて、物騒なものもあったりする。
魔法のように便利なものじゃないのだ。
……魔法使いと対にされてるけど、
いやいや、全然あっちの方が便利じゃん、と愚痴をこぼしたくなる。
向こうの方が断然、有利だし、ずるいなあ。
あっちもあっちで苦労があるのだろうけど、知らないから配慮しない。
知らなかったです、が通じる内は、それに甘えるべきだ。
初心者の特権を有効活用しよう。
アルアミカが言うには、
「海底ダンジョンまで、私は魔法でシャボン玉を作って、その中に入ってたんだけど、
私はいけないし、魔法も、今は使えないから……、ごめん。
そこから作ってくれる? 錬金術師――」
らしい。
海中、しかも深海とあって、もちろん生身でいくのは無理。
いけそうだけども、怖いし嫌だし、そんな無謀な事はしない。
だからアルアミカの言う通り、そのシャボン玉……、
しかし、魔法ほどの強度を持つものを作るには、素材が足らないので、
だから、その劣化版を作る事にした。
神器の時もそうだけど、レプリカばっかり作ってるような……、
まあ、プラスアルファで好きなオプションをつけられるのが、強みでもあるわけだけど。
好みの通りにセッティングできるというのは、他にはないオリジナルだ。
シャボン玉が無理なら、頭だけに被れる酸素ボールは、どうかな。
それなら今ある素材だけでなんとか作れそうだった。
二人分……、
最悪、一つのボールに二人で顔を突っ込んで向かう、なんて。
……ラブコメでもやらないな、そんな事。
そんなシチュエーションがないよ。
「あれ? 体は剥き出しなの?」
「そのつもりだけど……危なかった?」
水圧とか、そういう事は考えてなかったな……。
「大丈夫だと思うよ、たぶん。私もよくいくし」
それは、きっとニャオだからじゃなくて……?
日頃から毒を食べて抗体を持っている人と一緒に、
毒料理を鍋のようにつついて食べるようなものだと思うけど……、
私、大丈夫?
自分のだけ全身鎧にしようかな、と密かに企む。
まあ、どうせなら。
「ちょっと頑張って、二人分の全身鎧を作ろうかな――」
錬金術は、ここからが勝負になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます