第24話 底へ誘うダウンカレント
呪いのアイテムを愛用する幼女……に見えるけど。
私よりも小さな体をしてるのに、私よりも二つ年上。
いつも、見てると私よりも年下なんじゃないかって、
身長から、振る舞いから思ってしまうけど――、今だけは、年相応に見えた。
「邪魔なんかじゃないよ。意地を張ってるだけなんじゃない?
ニャオちゃんもさ、後に引けなくなってさ」
そういう経験、あるんじゃない?
……ない、わけじゃないけど。
私はいっつも、そんなんばっかり。
見栄を張り続けて、それを現実にさせてきた。
虚言も、実現させてしまえば、力を宿す。
本物になれる。
天才だからこそ、私は無茶を押し通してきた。
けど、これだけてこずったのも、手詰まりになったのも、初めてだった。
これじゃあ、確かに、あいつの言う通り――、
「私は、天災だな」
「天災?」
「うん、言われたのよ。『君は天才じゃなくて、天災だ』って」
「はえー。よく見てるね、アルアミカちゃんの事」
それって、的を射てるって事じゃないか。
カランにまで、そう思われてるって事……?
私ってば天災か……。
「カラン……、ニャオは、いまどうしてるの?」
「勉強してる。ほら、サボってるの、ばれちゃったでしょ?
それの埋め合わせらしくて。
ちなみにティカは
だから錬金してるはずだよ」
あれの事は別にどうでもいいけど……、じゃあ、ウスタは?
「そうそう、ウスタさんも、ニャオちゃんを殴った事、きちんと謝ってたよ。
ニャオちゃんとも仲直りしてたし、仲良さそうには見えたけど……」
「でも、誤解したままなんでしょ? 王座を、狙っているって」
――敵、なんだって。
「……まあね。根付いたイメージって、なかなか払拭されないからねー」
そのイメージは、私達が勝手につけて、勝手に敵だと勘違いしているだけで。
ウスタからしたらとばっちりでしょ――、と思ったけど、そうでもない。
ウスタもウスタでニャオを殴ってるし、自業自得でもある。
やっぱり、こればっかりは互いに向き合って、腹を割って話さないと、
疑心暗鬼の必要ない信頼関係は築けないと思う。
私とウスタが雑談をしたように。
直接、ウスタの口から聞くように。
嘘か真か、話してみなければ分からない。
「……大きなお世話でしかないのかな」
「アルアミカちゃんの気持ちは充分に伝わったと思うよ。
少なくとも、ウスタさんの分は」
つまり、リタの分は伝わってないと。
……まあ、完全に、ベタ惚れだもんね。
「どうしてリタ君の事を嫌ってるのかは分からないけど……、
アルアミカちゃんにも理由があるんでしょ?
じゃなきゃ、ニャオちゃんに嫌われると分かってて、そんなこと言わないもんね」
「そりゃそうだけど……」
カランに言ってもどうせ信じないし……。
決めつけは良くないと思うけど、
でも、さすがに現実味がない理由だ。
しかし、事実だ。
「聞かないよ」
――え? とこっちが聞き返す。
「話してもどうせ信じられないって、アルアミカちゃんは思ってるんでしょ?
じゃあいいよ。その理由を聞かなくてもさ、味方でいる事はできるから」
カランは大の字で横になる私を覗き込む。
額をこつん、と合わせて、
「今は、アルアミカちゃんとニャオちゃんの仲直りが先なんじゃない?」
うん、と、
お姉ちゃんの言葉に頷くように、私は素直な気持ちでそう言えた。
「仲直りをするために、手に入れたいものがあるの」
「ん? なになにー? プレゼント?」
そうでもあるし、そうでないとも言えるかな。
仲直り……ではあるんだけどね。
喧嘩してしまった理由をまず潰しておこうかな、と思って。
目標は高く、過程は過酷だけど、カランはきてくれるかな……。
きて欲しいな、と、そんな欲が出た。
いつもは足手まといとか、一人の方が断然やりやすいとか、愚痴をこぼすくせに。
仲間が欲しいと願っても、
実際に引き連れていったらそれはそれで文句が出るという、理不尽な感情。
全部、分かって理解していても、
今回はどうしても、カランを連れていきたかった。
私のわがままで。
今、頼れるのは、年上のお姉ちゃんの、カランしかいないから。
「ふふん、お姉ちゃんだからね、なんでもござれ!」
胸を張るカランに私は言う――、
月明りと海をバックにして。
ちょっとした
「海底ダンジョンに、一緒にきてくれる?」
「うわっ、わわわ!? ほんとに大丈夫なの、これ!?」
「大丈夫よ、私の魔法が信用できないのかしら?」
海中。
私とカランは、体を包むシャボン玉の中に入ってる。
この玉は空気を操作して作り出したもので、酸素は充分。
海底ダンジョンがどれくらいの水深にあるのか分からないけど、
酸欠になる事はないから大丈夫――もし、なったとしても、
私がいれば自分もカランもカバーできる。……穴のない作戦!
「で、でも……完璧なんて存在しないから、やっぱりちょっとは心配だよ……」
シャボン玉を指でぶにぶにと押す。
ゴムみたいに伸びるので、ある程度の強度はある。
「カラン、あんまり押すと破れ……」
水中だけど、ぱぁん! という音が聞こえた。
破れたシャボン玉の中からカランが飛び出したっ!?
水中でパニックになったカランがじたばたともがきながら、
しかし頭の被り物のせいで浮き上がらない。
あと、ここら辺一帯は『ダウンカレント』になっていて、(だからシャボン玉は真っ直ぐ沈むわけだ)海流のせいで、中々、泳いでも浮き上がれない。
なのでカランは面白いくらいに努力と反比例して沈んでいく。
「……あ。か、カラン――ッ!」
「た、助げてぐれで、あびがどう……」
私のシャボン玉の中に急遽カランを入れて、最悪の事態には出会わなかった。
……こ、怖かった。
一度、助け損なった時は本気で目の前が真っ黒になりそうだったもん。
真夜中の深海は、暗くてもうほとんど見えない。
もしも次、シャボン玉が割れたら……、
今度こそカランを助ける事はできないかもしれない。
「こ、怖い事を言わないでよ……」
「じゃあ怖い事をもうしないでよ……」
いくら強度があるとは言っても、完璧なわけじゃないんだから。
するとカランは笑みを見せ、
「でしょ!」
――と。
あー、うん。
確かに。
カランの私に向ける心配も、これで分かった気がする。
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