第18話 幕間

 そして、


 その白骨死体を、わたしは見たことがある。


 それは神獣に己を捧げ、この国を救った英雄……、

 わたしのママであり、先代のお姫様。


 魂と肉体を抜かれた白骨死体は、お墓の下に埋まっているはずなのに……、

 それがなぜか、ウスタの部屋の机、その引き出しの中にある。


「執着心が強いわよね……。

 そんな執事が、執事のままでいる事に、納得がいっているのかしら」


 ふと、なんとなく言っただけだろうアルアミカの呟き。

 けど、その一言でウスタが求めるものを見つけてしまった気がした。


 考えてみれば、おかしな事じゃなかった。

 わたしの保護者役であり、パパの側近であり、

 パパが亡きいま、王の仕事を務めているのは、最初から最後までウスタだ。


 このままスライドしてウスタが王になっても、

 不満はあっても、わたしがトップになるよりは、国民のみんなは納得するだろう。


 そのための情報収集。


 外堀を埋め、わたしを支配下に置こうとしてる。


「……ニャオ?」

「アルアミカは、わたしの味方でいてくれるよね?」


 なに言ってるのよ? 

 とアルアミカは突き放した言い方で。


「当たり前でしょ」


 ん。

 今晩は、安心して、眠りにつけた。



 真夜中、アルアミカが窓から外に出るのが見えた。

 けど、睡魔には勝てずに再び目を瞑る。


 ウスタが、王になる。

 もちろん、嫌いじゃなかった。


 厳しかったけどいつも一緒にいてくれたのはウスタだ。


 パパが忙しくても、ママに怒られても、ウスタだけは味方でいてくれた。

 厳しいのだって理由があった――、わたしのためだって、分かった。


 けど、全部が逆転した。


 わたしの信頼を得たのは王になるため。

 だったら、優しくしてくれたのも、

 厳しく、叱ってくれたのも、全部が全部、そう思えてしまう。

 そうとしか思えなくなってしまう。


 それ以外、もう考えられない。

 いま考えたら、パパが殺されたのも、ウスタが仕組んだ……。


 いや、根拠もなく言うのはやめよう。

 でも……、そう考えたらしっくりくるのに。


 ウスタは、泣かなかった。

 笑顔を見せても、それはどこか、嘘のような……。


 そこまでいかなくとも、本当じゃないってのは、なんとなく感じてた。


 ウスタが、この国の王になる――、

 わたしは素直に、嫌だな、と思った。


 どうすれば回避できる? 

 考えたわたしは、すとん、と、一瞬で方法が浮かんだ。


 願望があったから。

 ピースが、空いていた隙間に綺麗に収まったのだ。


 構えて待っていたところに、偶然、開いたものだから。

 わたしはそれしか、はめる気がなくて。


 それ以外の方法はまったく見えていなかった。



「リタがいい」


 だから。


「リタを王様にする」


 そのためには。


「――リタを、わたしのものにする」

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