第11話 いずれやってくる
「遠慮がない」
「ごめんって。でも、楽しかったでしょ?」
あれから数ゲーム続き、勝ったり負けたりを繰り返して、最終的にお互い真っ黒になった。
それにしても、
わたしの方は日に焼けた肌色だから、真っ黒になってもあんまり変わらないんだよね。
逆に、リタは真っ白過ぎるから、変化が大きかった。
タコボール地帯を抜けていくと、自然と墨も洗い流されていく。
二度とくるなー、的なニュアンスの事を言われたけど、
まあ、毎回、言われながらも次にくる時には歓迎してくれるツンデレなタコさんなので、まあ、大丈夫でしょう――と楽観視。
大丈夫だよ、うん。
「……楽しかったよ、そりゃ」
あそこまで熱くなれたのは、リタが初めてだった。
まあ、ああやって遊べる子が近くにいなかったから、
実際、ああやって遊ぶのは初めてだったりする。
……友達、いないからね。
「ニャオは、いじめられてるの?」
「そんなわけないでしょー!
これでも姫様なんだからっ! 人気者だよ!」
いじめてくる『友達』すらいないんですけどね!
やっぱり、姫様っていう先入観のせいで、
わたしを敬ってはくれるけど、対等に接してくれる人は少なくなる。
同年代ではなおさら。
この国に長居してくれる旅人なんて滅多にいないし、
この国の出身じゃあ、態度は一律で変わらない。
だからアルアミカやリタの存在は大きかった。
実はね、今、とっても楽しいんだあ。
「こうやってわたしが見つけたスポットを紹介できて、一緒に遊べるのが、なによりも幸せ!」
「…………」
リタはぷいっと視線を逸らして。
「……うん」
「リター?」
顔を近づけると、リタはわたしから離れていく。
うー……、それはショックなんだけどー。
「違くて、今のニャオの表情は、その――」
はっきりしないなあ。
先行するリタの背中にがばっと乗り、腕を首に回して絞めてあげる。
「言ってよー、ダメなところがあるなら直すからー」
「じゃ、じゃあ放して! いいところに入っちゃってるから!」
じたばたと暴れるリタを放す。
さあ、放したんだから話してくれないと!
「もしかして、それが言いたかっただけなんじゃ……」
今度はわたしがぷいっと視線を逸らす番だった。
いや、まあ、それだけじゃないけど。
だって思いついたのって、言いたくならない?
つまんないとは思いながらも、なんだか消化したい感じじゃん。
って、それはどうでもいいの!
なんでわたしを避けるかなー、もう!
「避けてないよ……照れただけ」
「なんで?」
リタは明後日の方向を見ながら、はあ、と溜息をつき、
「ニャオの表情に見惚れただけだから! ほら、早く帰るよ!
夕食までに帰らないと、執事の人に見つかっちゃうんでしょ!?」
わたしの手を引っ張って、海中を進んでいく。
……無言で、わたしとリタは王城へ戻った。
道中、わたしはリタの顔を見れなかった。
顔を上げられなかった。
わたしの、表情に見惚れたって……、なにそれ、なにそれ!?
顔のにやけが、止まらないよ……っ。
またまた、扉の隙間から夕食が差し込まれた。
いつも通りに受け取り、食事をして、トレイを返す。
ふぅー。
それにしても課題って終わらないなー。
まあ、午前中しかやってないから、進み具合が遅いのは仕方ないんだけども。
今から寝て、夜中はまた、リタと遊びにいく。
なので寝る時間は今から深夜までの、限られた時間しかない。
今日は昼間に遊んで疲れたから、ぐっすりと眠れそうだ……。
そんな生活サイクルが数日続き――、
わたしの観光スポットもそろそろ弾数が尽きかけた頃。
真夜中。
目が覚めた。
物音がしたので反射的に。
リタかな、と目を開けると、オールバッグが目に入る。
「わきゃ!?」
思わず叫び声をあげそうになり、口を塞がれた。
片手を押さえつけられ、それだけで身動きが取れなくなる。
大きな手、抗えない力。
執事服のウスタが、わたしをじっと見つめている。
「……進み具合はどうですか?
いや、見ましたけれど、進んではいますが、遅いですね。
まるで課題の時間を別に使っているような気がしますが……」
どきんっ、と心音が跳ねた。
脱出して遊んでいることが、ばれてる!?
「まあ、別に時間を作っていなくとも、テキトーに過ごしてやらないのが姫様ではありますけど……、それにしても、です。
遅過ぎます。監禁している私も、罪悪感に苛まれていると分かってください」
嘘つけ! ノリノリだったじゃないか!
と言いたかったけど、口を塞がれているのでどうにも言えない。
んむむー、と、もがくだけ。
「そろそろ、ラストスパートをかけましょう。
今日は朝まで、みっちりと勉強を教えてあげます。
私が。
……夕食後から今まで、眠っていたのなら、睡眠はばっちりですよね?」
な、なんで知ってるの!?
あっ! 電気を消しちゃったからか!
ウスタの目は、今までで見たことがないようなものだった。
とにかく、冷たい目だったのが、記憶に残ってる。
文句を言えず、強制的に起こされ、椅子に座らされた。
辞書のような分厚い課題を開く。
ペンを持つと、首元に、ぬぅっと、ウスタの手が這う。
ぞっと、した。
そして、耳元でウスタの声が聞こえる。
息遣いも一緒に。
声で支配されるような感覚が、わたしを縛った。
「それでは、四十二ページから――」
嫌な汗をかきながら、わたしをペンを走らせる。
ウスタの一挙一動が、不気味だった。
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