第7話 監禁部屋
「うにゃー」
とわたしは猫撫で声で。
アルアミカは島を探索すると言って庭を出ていく。
この島には出店と浜辺と海くらいしかないから、面白くないと思うけどなあ。
王城よりは低い位置だけど、奥に進むとちょっと民家があって、自然と言えるのかなあ……でもまあ、一応、木々がある。
町を開拓する時の名残で、木々が集まり、ちょっと森が残ってるけど、人も動物もいない。
だーれもいない。
惹かれるものがないので、好奇心が湧かない。
そのため猫にとっては平和でしょ。
そんなわけで、うー、にゃー。
「鳴かないでください。
ニャオーラと言っても、別にあなたに猫のイメージはないでしょう」
「意外とそういうイメージがあるらしいよ。
なぜか『ごろにゃん』って言って、とおねだりされた事がある」
「ほお。試しにやってもらっても?」
「ごろにゃんにゃん」
ついでに猫手を作って。
しかしわたしの首襟を掴んで引っ張るウスタは、
やらせておいてわたしの方を見ていないので、意味がなかった。
声だけ楽しんでね。
ずささー、とわたしは
「小さな手ですね。まあ、可愛いんじゃないですか」
「なんで死角なのに分かるんだろう……」
「そう言えば、猫には死角がないそうですよ」
「へえ……って、それって凄いよね!?」
「嘘ですよ」
上がったテンションが一気に下がった。
いやまあ、猫に死角があろうがなかろうが、なんてことないって感じだけどね。
でも、思ってもみなかった事だから、ちょっと驚いた。
結果、嘘だったからなんの得にもならないけどさ。
「嘘なので、あとでごろにゃんの時の手、見せてくださいね」
「あ、そっちが嘘なの!?」
じゃ、じゃあ猫に死角がないってのは――、
「……さあ、どっちでしょうね」
わたしの部屋がなんだか厳重になっていた。
入りたくない……。
プライベートルームがさらに強固になったと言われたら、良い事かと思うけど、
でもこれじゃあ一度入ったら出られないよ。
ウスタめ、わたしを出す気がないな……?
「出す気はありますよ。姫様が勉強を全て終えれば」
「全てって……」
視線で、どれくらい? と聞いてみる。
「今までサボった分、溜まったものだけですよ」
「終わらないじゃん!」
「相当サボったって事は自覚あるんですね」
呆れたウスタは、手で目頭を押し、
表情が変わる。
「あの方はあなたに甘かったようですが、私はそうはいきません。
どうぞ、罰したければ罰してください。
まあ、そのためにも勉強は必要ですがね」
視界が一瞬ぶれ、わたしは見慣れた床を間近で見ていた。
鈍い痛みが頬にあった。
ちょっとだけ、口を切っていたらしく、鉄の味がする。
分からない、けど……、可能性として、殴られた?
わたし、お姫様なのに?
ウスタは、執事で、わたしの世話係なのに!?
「う、ウスタ!?」
「さようなら、お姫様。
食事は定時になれば持ってきますので安心してください。
簡易的なトイレも、三つほどあるでしょう?」
部屋に投げ入れられ、背後を見ると……、
「う、そ、でしょ……? あんな袋にしろって言うの!?」
「排泄物は固めて、匂いも取ってくれます。売ったりしませんよ」
「その裏ルートの取引売買まで頭は回ってなかったよ!」
さらりと自然に出てきたところが、言い慣れてる感がしないでもない。
マニアックだぞ、裏ルート。
ウスタがいきなり遠い存在に……。
「では、全ての課題が片付いたら呼んでください。
部屋にメガホンを置いておきますので」
なんて原始的!
「ちょ、待って、待ってってば――ウスタぁ!!」
わたしを引き止める声を聞かずに、ウスタがすたすたと扉から離れてしまった。
せっかく、早速メガホンを使ったのに……。
開けようとしてもギチギチとなにかで縛られており、開かない。
開かずの扉。
わたしは内側にいるという、普通とはちょっと違うシチュエーション。
鎖だ……。
外にいた時、扉の真下に積まれてあったそれに気づいていたから分かるけど……、
真っ黒な、鎖。
刃が通らなそうな硬さが見て分かった。
「じゃ、じゃあ窓!」
机の目の前にある、大きな窓。
外開きのため、手で押したが、びくともしない。
こっちも同じく、鎖で固められているらしい。
ガラスを割ったところでウスタに気づかれるだろうし、怒られるし……、
できそうにはなかった。
机の上には、課題。
毎日必ず見て、開こうとするけど開いたらやらなくちゃいけないから、じゃあ開くのやめようと毎回思う、憎き敵、課題。
辞書のように分厚いそれが二冊。
……終わるわけがない。
終わった頃には、アルアミカは待っててくれないだろうし……いや、手紙!
それを窓の隙間から落として、風に乗らせ、たまたまそれをアルアミカが取ってくれたら……いける!
計画性がまったくない行き当たりばったり過ぎる手ではあるけど、
わたしにとってはかなり大きな希望だ。
ひとまずペンを取り、紙を用意する。
机に座っているのにする事は勉強ではなく、脱出するための突破口を模索する。
課題は横に置かれて寂しそうに。
勉強が嫌で逃げるために机に向かうとは、いい皮肉だった。
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