第2話 逆さまの魔法使い

「ああ、この王冠、呪われてるから」


 言ったでしょ、とカランは飄々とした様子で。


「曰く付きアイテムをはじめ、呪われたアイテムも取り揃えていますって。

 私自身が、お客様第一号」


「それ、呪われたアイテムだったんだ……」


 ティカも一緒に驚いていた……知らなかったんだ……。

 そしてそれに関して、カランも驚いていた。


「い、言ったじゃんずっと前に!」


「覚えてないよー」

 にへら、とティカが笑った。


「常に王冠を乗せてるのに、疑問とかなかったんだ……」

「思ってたけど、そういう趣味なのかなって」

「ずっとそんな不本意な勘違いをされてたのはショックだよ!」


 でもこれはこれでお気に入り、とカラン。


「はずれないから、そう思うしかないんだけど……」


 こうなったら一生付き合うよ、と決意は固いらしい。

 カランは手入れを怠らなかった。

 まあ、これはこれでキャラ付けみたいになってるし、


 カランと言えばその王冠ってイメージもつくから、あってもいいんじゃないかな。

 あった方がいいと思う。


 年上で子供に見えるいじられキャラに加えて、

 その王冠はキャラ付けとしては正直、重たいけど。


 見た目がおとなしめのティカと一緒だから、ちょうどバランスが取れてるのかもね。


「そう言えば、解呪の方法があった気が……」とティカ。

「ほんと!?」


「食いつくの!? そこは一生付き合うって決意を固めたんじゃないの!?」


 重いんだよ! という切実な本音が聞こえた。

 じゃあ、そうだね、うん。

 すぐ解呪するべきだよ……。


「ティカ、解呪の方法、教えて!」


「嫌」と即答だった。

 いじわるとか、いじった結果じゃなくて、本当に嫌みたいだった。


 がーん、と、ショックを受けたカランが分かりやすく落ち込んだ。

 さすがに、かわいそうに見えてきたなー。


「ねえねえ、ティカー。いいんじゃないの? 方法を教えるくらい」

「……嫌なの。だって、関わって欲しくないもん」


 やばい方法なのかな? 

 まあ、呪われたアイテムの時点で、やばいんだけどさ。


「いや、解呪してくれる連中がね……」


「?」と首を傾げると、



「あああああああああああああああああああああああああああッ!?」



 やがて近づく叫び声が、わたし達の目の前、岩場ぎりぎりの海に着水した。


 ――人!? なんで、空から!? 

 おとなしく待ってくれていた触手ちゃんが、

 触手を使って落ちてきたそれを海底から引っ張り上げる。


 サルベージみたいに。

 足から逆さまに、水上へ出てきたそれは、女の子だった。

 逆さまのため、スカートが思い切りめくれ上がってるけど(実際は垂れ下がってる)、

 この場には女の子しかいないので誰もときめかなかった。


「かぼちゃ……」


 と、ティカが呟く。

 パンツがかぼちゃの絵柄だった。


 そもそも、現れた女の子、全体的にかぼちゃみたいだった。

 髪の色といい、帽子のデザインといい……、


 しかしそれはかぼちゃって言うよりも、かぼちゃを使ったアートの一種で、お菓子をくれなくちゃイタズラしちゃうぞー、とかいう、どこかの国のイベントを参考にしたもので、食糧のかぼちゃではなかった。


 じゃあ旅人か。

 うーん、それにその姿……見覚えがある。


 すると隣のティカが、嫌悪感を隠さず、呟いた。


 本当に、忌々しそうに。


「もうっ、噂をすれば、魔法使い……っ」


 あ、思い出した――魔法使いだ。


 被らず、紐でぶら下げてる帽子はとんがってて、まさにそれ。

 後ろの丈だけ長い服装は、翻せばマントのようで、それっぽい。


 けれど夏仕様の衣装で袖がないため、

 虫取り少年のようにしか見えないのが惜しい……ニアピンだ。


 同い年くらいの魔法使いの女の子は、ううーん、と意識を取り戻した。

 海水を飲んじゃったのか、目覚めたのと同時に、ぺっぺっ、と吐き出した。


「しょっぱっ!」

 うげー、と顔をした後、わたし達に気が付いた。

 さり気なく、ティカが距離を取る。


 うーん、よっぽど嫌いらしい。

 魔法使いに嫌な思い出でもあるのかな。


「なによ、あんた達、逆さまになって」


 いや、それはお前じゃん、とは誰も言わなかった。

 ……この子、マジで言ってる……。


 足の感覚が死んでるんじゃないかな。

 しかし、なにも言わないわたし達に気づき、あー、と魔法使いは気が付いたらしい。

 逆さまなのは自分なんだよ? と言わなくて済んだのは良かった。


「私の名前はアルアミカよ!」


 腕を組んでふんぞり返るようにそう名乗った魔法使い……の女の子。

 パンツ丸見えでなにしてるんだろう、この子。


 カランと顔を見合わせる。

 ……どうしよっか? うーん、どうしよっか? 

 と打開策が見つからないまま、話が進んでいく。


「ちょっとー! 名乗ったんだからあんた達も名乗りなさいよ! 

 この私が、見下してあげてるのよ?」


 見下されてるのはそっちだけども……、

 頭の位置が互いに対極にあるから、

 自分を基準にしたら互いに見下してるって事になるのかな。

 うわあ、厄介。

 あっちは絶対に気づかないよ。


 というか、もうほとんど、意地になってる気もするけど……いやいや。

 でも、意地であってほしい。


 誤魔化すためにとりあえずその体勢で頑張ってるって事にしてほしい。

 じゃないと、わたし達じゃ手に負えない。


 魅力的以上に厄介だ。


「……ティカー、助けてよぉ」

「お姫様、社会勉強だよ?」


 猫被り用の笑顔で言われた。


 これ以上、私に振るな、そう言われてる気がした。

 破ったら遠慮なく攻撃してきそうな。


 というか、まずこの子を攻撃しそうな気がしてて落ち着かないよ。

 ……し、仕方ない。

 ここはわたしも名乗って、教えてあげよう。


 逆さまなのはそっちだよ、って。


「なにをもたも、た……」

 と目をぐるぐる回した魔法使いは、腕組みをはずして脱力する。

 そのまま気絶してしまった……。

 そっか、ずっと宙ぶらりんの逆さまだったから、頭に血が上っちゃったんだ。


「……触手ちゃん、とりあえず、上下を逆にして両手を縛っておいて」


 カランとティカからも、

 同時に、賛成ー、と声が上がった。

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