香り

そんなことを言うなと言えなかったから

ただ抱き着くように抱き合った二人という一つ

喧嘩をしてしまうことが怖くて

いつもぎこちなく笑いあった不器用な男と女は

やがて不幸な別れをした

怪物になってしまった女はせめて夢の中では

素直であろうとしてその面に不安な怒りを

そしてどうしようもない男は眠りの中で出会った

狂気を匂わせるかつての女の白い影に

二人は笑い合うことすら出来ずに

暗い廊下で抱き合った

湿った互いの肌の匂いがした

忘れもしないあの香りがいつまでも消えなかった

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