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アカネとミーシャが風に揺られるパラソルの気の赴くままふわふわと落ちていくうちに、崖の上からだと曖昧だった建物たちの輪郭が次第にはっきりくっきりとしてきた。そして、アカネには地上に近付くにつれて分かったことが1つあった。
「この街…甘い!」
アカネの言葉にミーシャも鼻をくんくんさせた。ぬいぐるみでも匂いが分かるらしい。
「焦がしバターにシナモン、チョコレート、焼きたてのスポンジケーキ…他にもいろんな美味しい匂いがするね。ここはお菓子の街なんだね」
アカネは街を見下ろし目を凝らした。
ウエハースを積み上げて造られた家、クッキーのタイルを敷き詰めた道、その道に沿って順序よく並ぶ飴細工の針葉樹。ビスケット人間はジェリービーンズ犬を散歩させ、マジパン小人はブッシュ・ド・ノエルのベンチで和気あいあいと雑談している。
お菓子の街を眺めながら落ちていくうちに、アカネとミーシャは街中にあったパンケーキ5段重ねに無事着地した。
ミーシャはアカネの背中から降りてクッキーのタイルに上陸した。左右の脚を交互に動かし地面の感触を確かめている。一方アカネは目の前の太陽の光を受けてきらきら輝く城を見あげていた。
「あのお城は何でできてるのかなぁ」
アカネの呟きにミーシャも城を見上げた。
「氷砂糖っぽいね」
その時、2人の後ろからけたたましく軋む車輪の音とともにきんきんと甲高い怒声が飛んできた。
「そこの2人組、道を開けろっ!姫様のお通りだ!!」
「「?」」
城に見とれていたアカネとミーシャは声のした方を呑気に振り返り、『そこの2人組』が誰を指した言葉なのかようやく理解したが、理解した時には既に遅く、馬車牽く馬が止まりきれずにその前脚を2人の頭上高らかに振り上げたところだった。
「きゃっ!」
アカネはとっさに両手で頭を庇ったが、その直後クッキーの馬と衝突し、薄っぺらい馬の首はポキリと折れて地面にペタンと倒れた。もう1頭のクッキーの馬はミーシャにぶつかる寸前で踏みとどまりなんとか衝突を免れ、その場でカタカタと足踏みしていた。
「はぁ~。また焼き直さなきゃだ」
馭者の格好をしたマジパン製の小人が馭者台で項垂れている。プレッツェルの車輪を持つシュークリームの馬車から、心配そうな少女の声が聞こえた。
「何があったの?」
「馬が通行人にぶつかって割れちまいました」
「じゃあ歩かないといけないわね」
「へぇすみません」
アカネの鼓動は早鐘を打っていた。こんなところに?とは思ったが間違うはずがない。この声色は、まさか…。
マジパン馭者がシュークリーム馬車のドアを開け、短い手を差し出すと、中からすらりと細い指が伸びてきて、次第に声の主の姿が露になった。
「ミドリ!」
アカネは瞳を輝かせて、ついこの間離ればなれになってしまった親友の名を呼んだ。呼ばれた少女は振り向き、不思議そうにアカネとミーシャを見つめて柔らかく微笑んだ。
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