第一話 喋る猫

 この日の多賀山は、不気味だ。

いや…… いつも何か感じるのだが、今日は特に強いと感じる。

いつもより辺りが暗く感じるのは気のせいではないと思う。

今日は7月20日 ようやく梅雨が明け、日が沈むような時間ではないはずなのだが・・・


「早く終わらして帰ろう」


息をゆっくり吐き、気を引き締める。

階段を登りきり、掃除を終わらせる。社に手を合わせたとき、突如強い風が……


 気づけば私は神社の階段の下にいた。 頭を強く打ったのかもしれない。


 『風で吹き飛ばされた』


 理解するのに相当な時間がかかった。

身体を動かそうとするたびに体が痛む。全身を強く打ったのが身をもって感じる。当然骨も折れている。

 人は滅多にこないので助けを呼ぶこともできない。まぁ、それ以前に声も出せてないのだが……


だんだんと意識が遠のいて行く。

死ぬのだろうか。

私は考えることもできなくなり深い眠りへとついた。


……きろ ……きろ ……おきろ


誰かが叫んでいる。そんなに揺らさないでくれ、痛いから。


「お主何を言っておるんだ、そんなもん儂がとっくに治した。動かしてみろ」


ゆっくりと目を開ける。まだ視界がぼやけていて、相手方の顔が見えない。

しかし、冷静になれば体も動くし痛くない。


「どうや」


ゆっくりと起き上がって彼の方に振り向くと、そこには右目が青、左目が緑の猫がいた。

 そして……


「つい吹き飛ばしてしまった。悪いな……」


喋った。











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