第30話「線香花火の蕩け」
一泊二日の今回の合宿。
ゴールデンウィークを全部埋めていないことは救いだったかもしれない。
「あ、相坂君~~そっちのコテージにこの荷物全部移動しといてね~~」
顧問の先生は雑用を俺に任せ、一人コテージのベランダへ煙草を吸いにいった。あんな大人が先生してることを考えると日本の教育事情問題も伺えるな。
「せんせ?」
「どうしたんだ、吉原、それに相坂も?」
「生徒の前でタバコはどういうことですか?」
「いやぁ、いいじゃんなぁ……ここって禁煙じゃないし、吸ってもいいって書いてあるしな」
「そういうことじゃないですよ……はぁ、まったくうちのせんせーは」
「溜息つくなよ。ここまで送迎してやったのは私だぞ? 良いじゃんかそれくらい!」
「よくないでーす、だよね新人君?」
「まあ、一般常識的には——ダメかと思いますよ?」
「うぐ……ひどいなぁ、最近の若者は!」
恐らく先輩よりも大きな巨大な胸を揺らして、先生は子供のように両手をグーにして下に伸ばすジェスチャーをする。
「子供じゃないんだから……みっともない……」
ジト目で引くような視線を平気でする吉原先輩の容赦のなさには少し背筋が凍ったが、非があるのは先生だった。
「っちぇ~~、私も高校生に言われるとは……」
「なんで、せんせーがため息ついてるんですか!」
「先生だってね、疲れるのよ? そのくらい知ってるでしょ~~」
「知らないし、先生の持ってる教科って美術じゃないですか——自慢できるものでもない、画家になれなかった人間がなる職業ですねっ」
「あ、せ、先輩それ以上は——」
目を瞑り、腕を組みながら無い胸を張る吉原先輩の肩を引いて俺は精子を促した。なぜなら、目の前にいる先生が涙目になって唇を結びながら身体をプルプルさせていたからだ。
「も……もぅ、いいもんっ‼‼」
「あ、先生——!」
遂に事切れたようで、鼻息を荒く吐き出しながら俺と先輩の横を通ってコテージの中へ戻っていった。
「……もう、吉原先輩何してくれてるんですか」
「私は間違ってないしっ、いいじゃん」
「そこはそうですけど……もっと、言い方があるじゃないですか」
「知らなーーい! いいもんっ、新人君は早く車から荷物降ろしてコテージの中に入れといて! 私たちはBBQの準備してくるから‼‼」
「——ちょ、先輩!!」
そして、不貞腐れた吉原先輩も——ぶんすかぷんすかとなにかを呟きならその場を去っていった。
まったく、この部活に良識を持った人はいないのか。本を読んでいる文芸部なら多少の教養を持ち合わせていると思っていた俺が間違っていたのだろう。文芸部と言えば小説を書くんだし、変人が多かった。それだけだ。
「はぁ……まったく、俺もやるか……」
ベランダを去ろうとした時、下の方で結城先輩と話している高倉椎奈の姿が見えた。じっ――と見つめていると、彼女も上を向いて数秒間だけ目が合った。
しかし、彼女はすぐに目を逸らして作業を続けるのだった。
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