第29話「始まった夏駆け出しの合宿BBQ」
結局、あの後は地下歩道空間(通称「チカホ」)にある唐揚げの定食屋さんで昼食を済ませ、午後の部は——まあ元々と午後ではあるが適当に上映していた映画を見て、ゲーセンで遊んで帰ったのだった。
俺の勧めた作品を嫌な顔一つなく買った成神には少し驚いてはいたがこうやって話してみると案外、面白くて元気な奴で一緒に話していて楽しかった。「とら〇ラ」や「さくら荘」が好きというのは同じくラブコメ読書家としては共感してもしきれない。もはや、嬉しさまである――先輩意外にもこんなにラノベを分かってくれる人がいようとは、今夜の執筆も捗りそうだ。
「って、それにしても……だよなぁ……」
「ん、どったのよ、ゆうちゃん君よぉ」
「ゆうちゃんくんって、語呂が悪いからやめろ。なんか俺が恥ずかしいわ」
「——はは、分かってるぅ~~」
陽介と早坂さんはまだ遊びたいと言って二人で狸小路の大人チックな街に消えていったあと、俺と成神と小泉は帰路に着いていた。
「それでさ、ゆうちゃんはどうしたんだよ?」
「——明日からな、合宿があるんだよ」
「……合宿?」
「あらら、中間テストもあるのに大変だね……」
まぁ、別にそれ自体が嫌なわけではない。小泉も言った理由とあまり合宿という言葉にいい意味をもっていないからだ。前者はその通り、文字通りの意味だ。しかし、後者は俺が中学の時にやっていたストイック陸上部での思い出が大いに関係している。
「あ、でもそれなら私もゆうちゃんにテスト勝てるかもっ!」
「……まだやってないだろ、あと俺はそこまで頭良くないぞ?」
「嘘ですね」
「わたしもダウト~~」
「はぁ……自虐にしたら重いかもだが、あれだぞ、俺は追加合格だよ?」
すると、目を見開く二人。
しかし、彼女たちから放たれた言葉は想像の斜め上を貫いていた。
「「私たちも追加合格だけど?」」
芯からの、真面目な心。
それが瞳に明るくまっすぐに輝いていた。
「え」
たった一文字しか、それだけしか零れ出ることはなかった。
「な、なんい?」
「う、う~~ん、得点開示の時は……327位だったような?」
「私はあれ……326位だったような気がする」
ゴクリ。
俺は唾を飲んだ。
「……俺は、321位」
「「ほとんど合格じゃんっ‼‼」」
一年の人数は320人、確かに俺はそうだったがその肩書きは存在する。というか、俺たち三人とも似たようなものだ。
「まあ、三人一緒に仲良くできそうだな」
「はは~~バカ3コンビかね!」
「ちょっと嫌だけど、受け入れるしかない……」
そして、これが俺たちの通う高校に真の馬鹿三兄弟が誕生したのだった。
「まあでも、そんな馬鹿でも入学できたんだから……すごくない?」
「確かにな、成神の言うことも一理ある」
「私だって、中学校の時は学年200位くらいだったから凄いと思う……」
「あ、同じ同じっ‼‼ 私もっ‼‼」
「ははっ、結局そこのところは変わらないんだな……」
中学時代の思い出を振り返るとともに、穿り返された黒歴史トークに花を咲かせる俺たちは沈んでいく夕日を前に家に帰って行った。
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