第28話「え、中間テストあるじゃないですか?」その5
「あわわわわわわわわ~~~~」
「やべえ芸人みたいな声出すなぁ……」
俺たちは今。
札幌駅西側、四車線の道路を挟んで向かい側の場所にある書店の中にいた。
「え、もしや似てた? シロちゃん?」
「今だから言うと、似てた。きもさとか——すっごく」
「うげっ! それはひどいよぉ、ゆうちゃん!」
「ははっ、冗談だよ」
「知ってるぅ~~」
ニコニコと笑う成神。
ゆうちゃん呼びに早くも慣れてしまった俺からしてみれば冗談も言いやすかった。
普段の俺が女子相手で話すなら、あの時の先輩の告白のように焦って失言しそうになるはずなのだが成神の場合は違っていた。
もしかしたら、もしかしなくても本当に幼馴染じゃなかったのではないか——なんて考えが過ぎるほどだ。
「ここすっごい本いっぱいだね!」
「まぁな、北海道一デカいって言ってもいいんじゃないかな……?」
「でも、大きいのなら確か大通の方にもあったよね? アニメ〇トとかとら〇あなとか、スイカブックスとかある方にさ……?」
「なんだっけな、〇井……みたいな名前じゃなったっけ、そこ……」
「うぅ~~ん、分かんない」
「そ、そうか……」
テヘペロ――と舌を出すが、さすがにそれは古いと思う。
「苦笑い~~、めっちゃわかるんだけど!」
「だって、面白くないからな……」
「うぐっ――——効くなぁ、冗談」
「……効かせてるからな、冗談を」
俺たち二人が入ってすぐの雑誌コーナーではしゃいでいると、店員さんが軽く目くばせをしてきたため、彼女の手を引いて俺はラノベコーナーへと向かった。
「っ!」
「ごめん、ちょっとうるさかったみたいだから行くぞ」
そして、着いたラノベコーナー。
数々の小説が立ち並ぶこのフロアの中でも漫画、雑誌、それに次いでの大きさを支配しているのがライトノベルだ。
様々なレーベルの小説が区分けされていて、さらにそこから新作は目につく場所に置いてある。女性向けラノベもおかれているため、男女関わらず楽しめる場所だ。
「……っ、ぁ」
「それで、成神はここに来て大丈夫なのか?」
「え」
彼女は制止する。
止まったまま疑念を込めた瞳をこちらに向けていた。
「…………あ、別に、良いならいいけど」
さっきまで笑顔で話していた女の子が急に真顔になるもんだから、俺も焦って目を逸らした。急に――というのは本当に心臓に悪い。
「私は、別にここでも楽しいよ?」
「う、うん、なら大丈夫だけど……」
「あ、そうだよ! あれ、あれ教えてくれない⁉ おすすめな小説をさっ……!」
「しょ、小説?」
「うん! せっかくここに来たんだし、それくらいしとかないと勿体ないでしょ?」
「まあ、そうだけど……」
おすすめな小説か。
でも、学校で始めて成神に会ったときに一番推せる「ラブコメを語りたい!」は読んだって言ってたし、ファンだって言ってたからな。それを加味したら下手な名前なんて言えないっていうのが俺の持論だ。
あの小説を読んでいると人はセンスがあると、俺はそう思っている。
「でも、普段からラノベ読むの、成神って?」
「恋愛系は読むよ? ラブコメというよりかはちゃんとした恋愛小説——って感じだけど。トラ〇ラ! とか、さくら荘のぺ〇トな彼女とかは面白かった記憶があるかな……?」
「おお、有名どころを」
さすがはラブ語のファン、しっかりと有名作は読んでいるようだ。
「うぅ~~ん、でも成神はあれだろ? 新作は嫌とか、そういうのはないのか?」
「特に大丈夫だよ、読んでない方が嬉しいってだけ!」
「そっか」
顎に手を当てて俺は思考する。
距離にして十メートルはある本棚を何往復もしながら俺は一冊の本を手に取った。
「これ——とか?」
「これ……」
俺が渡したのはラブコメでは新参者であるカクヨミで投稿されていた書籍化作品「連れカノ」だ。
「ラブコメ?」
「うん……だけど、ヒロイン目線で書かれたり、サブキャラであるはずの親友とかヒロインの友達の目線でも書いてくれるから、心情描写がすっごく綺麗な作品。女子に設けるような作品だよ思うよ、きっと」
「つれ、かの……」
「良かったら、俺が買おうか?」
「いや、それは大丈夫! 私が買うから」
「そっか……」
嬉しいのか嬉しくないのかは分からなかったが、成神は少し暗めな顔をしてレジへ向かっていった。
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