第28話「え、中間テストあるじゃないですか?」その4
「ちょい遅れたかも~~ごめん~~‼‼」
奴は南口の西側から走ってきた。後ろには成神さんと早坂さんが二人で手を繋ぎながら走っている。
——いつの間に仲良くなってるんだ。
「おそい——ぞっ」
俺は軽めのチョップを脳天に叩き込む。さすがのバスケ部だけあって息切れはしていなかったがチョップによろける陽介。
「いてっ」
「ちょい遅れたじゃねえ、遅れまくってるぞ」
「ったたた~~、まったくひでぇな裕也」
「もう一時になるけど? それを知らされての感想は?」
「ん、ああ、知ってるけどなぁ」
「反省は」
「ちょっとくらい許してくれよ~~」
ニヤニヤしながら言いやがる陽介。
さすが、遊び人。考えてることが違う。
「おいっ、今俺に失礼な事思っただろ!」
「——知るか、というより事実だ」
「事実ってなんだよ、俺だって一生懸命生きてるし」
「っち、知るか。そんなことどうでもいいんだよ。まだ俺はいいが、小泉さんも待ってたんだぞ?」
「——え、まじ?」
「隣にいるだろ」
俺の促しに答える陽介。視線を左にずらすと目を見開いて驚いていた。
「あっ、ほんとだ!」
「おいっ——!」
もう一発叩き込んでやった。
今度は強めに。
「——いたっ‼‼」
それを見てクスクス笑う早坂と成神、目の前で崩れていく陽介の肩に手を添えて気にしないで——と優しく言う小泉。さっきほどの表情から溢れ出る威圧感と比べられないほどにやさしそうだったが、果たして俺はさっきの話で何か地雷を踏んだのだろうか。
「ごめんね~~、ゆうちゃん!」
「ん、あぁ……」
そして、やけに満点の笑顔を見せる成神。
ここまで来るとなんか怖い。
「悪いね~~、この陽介がさやっぱりあんまり行きたくないってほざいてよ~~、ゆうちゃんに迷惑かけちゃってごめんねっ!」
「——そうなのか?」
「うんっ、家行ったらさ私も正気か! ——って思ったよぅ」
「……だそうだけど、陽介?」
「違うって! 嘘だよ、騙されるな裕也! だいたい、俺にこの誘いを用いかけてきたのは成神の方だ」
「んあ、ねえ! それ言っちゃダメって言ったじゃん!」
焦って頬を赤くする成神は陽介の足を蹴る。
「いたっ‼‼」
「いいから言うなよぉ!」
「事実そうだろ! こっちが早坂と遊びに行こうって誘ってたのに、そっちが勝手に行くって言ってきたんだろ?」
「んぐっ――でも、いいって言ってくれたじゃんか~~! だよね、はやっち?」
「う、うん?」
「ほらぁ~~!」
ギャーギャーと喚く二人。
それを見て図らずとも視線がこちらに集まってくる。
なんせ、ここは札幌で一番栄えているクソでかい駅の中だ。
「はぁ。もういいから、ここで言い合うのはよしてくれ」
「————そ、そうだよ! 早くいこっ田中君!」
続けてフォローをする小泉。
彼女の優しい微笑みにギョッとくる俺ではあったがその相手は俺じゃない。しかし、いつもムスッとしてるやつが稀に見せるこういう顔には弱いのがラノベオタの性である。先輩のちゃらんぽらんな姿をいつも見せられている俺からしてみれば、ちゃんとした女子は珍しく思えるし。でも先輩もこのくらいに気の利く人になってほしいのだがな。
「んでよぉ、陽介。今日はどこ行くつもりで来たんだ?」
「ん~~、決めてる~~みんな?」
「早速みんな頼りかよ……誘ってきたのはお前だろ?」
「でもなぁ……行き当たりばったりでいくのが駅だろ~~特に決めてないぞ俺は」
「あ、でも私コスメ見に行きたいかな~~せっかくここまで来たんだし?」
「お、いいね~~早坂!」
「こ、こすめ……知らないなぁ俺は……」
「まぁ、裕也だもんなぁ」
「相坂君だしねぇ……」
「ゆうちゃんだしぃ」
「ははは……」
ジト目を向けるクラスメイト達。
もしかして、俺って非常識なの? 男子だし、高校生だし、化粧しないから普通じゃないの?
「な、なんだよ!」
「あっははは~~、ゆうちゃんにコスメはまだ早いから仕方ないよ~~」
「お、おい! その目やめろ、慈悲の目するな!!」
「でも……私も見てみようかな。リップ無くなってきたし……」
「それならあれだね、私と六花と田中君で行ってくるけど……成神さんも来る?」
「わ、私? う~~ん、今はいいかな、とりあえず。それにゆうちゃん一人にするの可哀想だし?」
「おい、なんで俺を憐れむ」
「事実だしな」
「うんうん」
「事実」
「んね?」
「おいっ‼‼」
今どきの高校生は女子が使うコスメを知らなきゃやっていけない……初耳だぞ。いや、それともあれか? あいつの会話術の常套手段——って言う線もある。
線どころが、濃厚だ。
「っははは~~、じゃあ私たち入ってくるから相坂君よろしくね~~」
「うん~~、いってらっしゃ~~!」
そうして彼女たち三人は隣接している「大きな丸」が目印のデパートの中へ入っていった。
「あ、あいつら……たかだか知らないくらいであんなに言いやがって……」
「まあ、ゆうちゃんが知らないのが悪いと思うけど?」
「んぐっ――――そんなに普通なのかよ」
「まぁ……陽介みたいなキャラだったら普通じゃない?」
「っく、さすがだな」
若干悔しいが認めざる負えない。
頭も良くて、女子の流行りにも敏感なやつに読書オタクの俺が勝てるわけもあるまい。甘んじて受け入れよう。
「——んで、ようちゃんはどうするっ!?」
俺が苦笑していると隣に立った成神は俺の肩に手を置いた。
「……どうするも何も、どこに行くかも俺は決めてないぞ」
「私はね、本や行きたい!」
「お、まじ?」
「まじまじ!」
「そういえばあの時言ってたもんな、ラブコメを語りたいのファンって」
「ライト文芸……だよね、あれ?」
「そうだな。挿絵のないラブコメみたいな感じかな」
「じゃあその、ラノベってやつ? 私も読みたいから選んでくれない?」
「いいの?」
「……まんまんだね、ゆうちゃん!」
「布教活動ならやりたいからな」
「おったくだね~~」
「問題あるのか、オタクでよ?」
「いやぁ、むしろ頼りになる!」
「よし、そうと決まったら行くぞ! キ/クニヤに!」
しかし、どうしてだろうか。
懐かしさを感じる。
会って一週間とちょっとの人間に「ゆうちゃん」って呼ばれているのに俺は何の違和感も感じていなかったのだ。
<あとがき>
良ければぜひ、星評価レビューしていってくださいな‼‼
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