幕間 小泉さんの気持ち
隣にいる相坂君は笑っていた。
私が面白くないと言ったこの本を見せた瞬間に彼が見せた瞳の微細な動きに気づかない私じゃない。
「うん——っていうか、面白いを超えてるかな。俺的には小説を読み始めたきっかけだし、それを超える作品は未だ見たことがないくらい。少なくとも俺が見た仲では世界一面白い小説だったと思う……」
私はよく、一人で本を読む。
本をよく知ったのは齢12歳。小学六年の夏休みに借りた純文学を読んだことから始まった。福沢諭吉、太宰治、三島由紀夫。歴史に名を刻む文豪の本を初めて読んだあの日の衝撃は今でも覚えている。
初見はこう思った。
——ただの文章、ただ単に何万文字も書き連ねただけの普通な文字なのだと。
でも、読めば読むほど。
手をとればとるほど。
——されど文章だった。衝撃、いや突撃。
衝撃が衝撃を誘発して、反動で体が震える。
——脳が震えた。
いや、震わされた。
「そうなのかぁ……私は、そんなにだったけど。あれかな、ラブコメがダメだったのか。恋愛はいけるんだけどね……」
あの者達の小説は異次元だった。
その感想はその後の小説を読んでも変わらなかった。
ただ、そんな私でも恋愛小説は嬉しかった。
「でも、あるかもよ? ラブコメってどっちかと言うと男性よりだし?」
そうか、確かにああいった都合のいい感じの小説はあまり好きではない。
感性の違いは切っても切れない。
「え、そうなの?」
「え、うん……だって女の子ってロマンチックなこと好きでしょ? その目で見たらラブコメにその要素皆無だしさ?」
「あ、あーーそう言われてみればそうなのかも?」
「だよね、やっぱり!」
「……なんで笑ってるの」
「うん、いやぁ……初めて作品を否定されたかと思ったからね——なんかこの作品がダメだって言われるのは俺が耐えられないし?」
「ふ、ふぅ……ん」
まあ、その作品を読んで見るのもありだろう。
きっと、優しい彼がそう言ってくれるのなら面白くないことはまずないだろう。
そして、私は頷いたのだった。
——この会話が私と彼の恋物語の始まりだった。
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